いずれもユニークな9つの収録作の中でも、ひときわ異彩を放っているのがタイポグラフィ小説「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」です。
この作品の特異さをお伝えするには、実際に一部をご覧いただくのが一番早いでしょう。

合流と分岐を繰り返しながら、紙面を縦横無尽に埋めつくす文字列。
いかにも歯ごたえがありそうな怪作ですが、好きな場所から文章をたどり、端から端へとページを渡っていくことで、ひとつながりのお話として読むことができます。
無事に編集作業を終えたある日、営業部から内線電話が。
「この小説って全部つなげると、どんな形になるんですか?」
そんな何気ない問い合わせから、このタイポグラフィ短編との格闘がはじまりました。
幸いなことに、つなげ方のヒントはあとがきで示されていたのでした。
ページの端はすべてほかのページの端につながるようになっています。(『あなたは月面に倒れている』著者あとがきより)
ならば端どうしをつなげていけば、小説全体を復元できるはず……!
さっそく見開きのゲラデータを印刷してみます。

【デスクの汚さには突っ込まないでください】
ページ間で文字が重なっている箇所を探し出し、つなぐ作業を繰り返します。
通りがかった上司が一言
「なにそれ、虫みたい」
小説ですよ! と返しながら、手を動かすこと十分足らず。

【業務用プリンターの上に広げられた紙面】
なんとか5枚全部をつなげましたが、まだ不完全な端が残っています。
ということは、こうか……?

【巨大なちくわのような形に】
しかしまだ不完全な端が残っています……(ちくわの断面の縁の部分です)。
一体どうすればよいのでしょうか。
ひとまず落ち着いて図を起こしてみます。

【??????】
図に整理しても皆目見当がつかず、「全ての端をつなげるのは不可能そう」という感触だけが残りました。
半ばギブアップの気持ちで、著者の倉田さんに直接問い合わせてみます。
「この小説、立体になりません、よね……?」
「私も立体化できないつもりで書いたのですが、この小説が『NOVA2』(河出文庫)にはじめて掲載されたころ、すべてのページをつなげた模型を作られた読者の方がいたのです」
倉田さんのお話によると、なんとグレッグ・イーガン『白熱光』(ハヤカワ文庫SF)の解説なども担当された板倉充洋さんが、立体化を成し遂げられていたそうです!
板倉さんの完成画像がこちら。
こうなるやつですね pic.twitter.com/4bNXok3mXg
— Ita (@itarex) June 9, 2023
不思議なひねりを入れることで、すべての縁をつなげられるのは驚きでした。
倉田さん、板倉さん、ありがとうございました!
板倉さんから立体化についてコメントをいただきました!
> 実は全部繋げるというのは当時も円城さんとかが
> 全体を5回繰り返してコピーすれば比較的素直につながると
> ものすごく重い計算なのでうまく端をつなげてなるべく少ない
> 原子で計算するということをいつも考えていましたので、
> これも5倍に増やさずになんとかつなげてみたのでした。
お仕事のスキルが立体化に活かされたのですね。とても興味深いです!
上下左右のつながり方については、倉田タカシさん自身が解説記事を公開されていました。






