作品の世界を「本」という形にして表現する職業、装幀家。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
西村 当たり前のことですが、装幀は本のタイトルをいかに読者に印象づけるかが大事ですよね。
草苅 「タイトルをもっと目立たせて」「もっと読みやすく太く!」「いっそ金赤(きんあか)でどうでしょう?」……カバーラフをお送りした後、編集者からの赤字ランキング上位は大抵タイトルについてです。
西村 ちょっと読みづらいかも?と一ミリでも思ったときは必ず突っ込まれますね。時々ものすごく小さかったり可読性の低いロゴの本を見かけますが、どうやって編集者を納得させたのかなぁ。
草苅 タイトルの書体を活字にするか、こちらでヴィジュアルに合わせて作成するか、書き文字にするか…の判断は毎回迷います。『自閉症のぼくは書くことで息をする』はタイトルに描き文字を使用していますね。
ダーラ・マカナルティ著 近藤隆文訳
(辰巳出版/2022年)
装画:末山りん 四六判
西村 書名が一人称なので、書き文字が似合うなと。これは弊社のスタッフOさんの字。普段から身近な人の筆跡を観察して、今度こんな内容の依頼がきたらあの人にタイトルを書いてもらおうとストックしています。
草苅 原稿に添えられた一筆箋(いっぴつせん)の筆跡が気になったり。店員さんの書く領収書とか。機会があればサイコな殺人犯の犯行声明文を書いてほしい編集者がいたり。客観的にデザイン出来なくなるからか自分の文字は使いづらいですが。
西村 わかります。自分で書くと作為的でヤな感じになってしまう(笑)。
草苅 昭和の芸能界を舞台にした村山由佳さんの『星屑』はアイドルのサインのようなロゴにしたかったのですが、可読性を上げるのに苦労しました。
『星屑』村山由佳
(幻冬舎/2022年)
装画:banishment 四六判
西村 ぱっと見て昭和のスターのお話だって分かりやすい。一度活字フォントも検討して、最終的に元の描き文字に決まったよね。手数をかけてタイトルロゴを作成しても編集者に見てもらう前に、既成のフォントに変更することも多いです。デザイナーが達成感を味わいたいだけなのかもしれない、と悩んだり。
草苅 作家が書いた文字をそのままタイトルロゴにした方が良かったりね。ヨシタケシンスケさんがイラストを担当する本は大体ヨシタケさんの書き文字を使用しています。独特の滋味があってとても印象的。〈世界ショートセレクション〉シリーズは20冊出ていますが、並べるとタイトルの文字の静かな強さを実感できます。
(理論社)
装画:ヨシタケシンスケ 四六判
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
印象に残った装幀を数点取り上げ、装幀家の方々にそこに秘めた想いや秘密を伺うリレー連載です。
■アルビレオ
西村真紀子(神戸出身)と草苅睦子(山形出身)。2008年、鈴木成一デザイン室を経て設立。手掛けた作品に、辻堂ゆめ『トリカゴ』(東京創元社)や本誌〈紙魚の手帖〉などがある。
http://www.albireo.co.jp/
西村 当たり前のことですが、装幀は本のタイトルをいかに読者に印象づけるかが大事ですよね。
草苅 「タイトルをもっと目立たせて」「もっと読みやすく太く!」「いっそ金赤(きんあか)でどうでしょう?」……カバーラフをお送りした後、編集者からの赤字ランキング上位は大抵タイトルについてです。
西村 ちょっと読みづらいかも?と一ミリでも思ったときは必ず突っ込まれますね。時々ものすごく小さかったり可読性の低いロゴの本を見かけますが、どうやって編集者を納得させたのかなぁ。
草苅 タイトルの書体を活字にするか、こちらでヴィジュアルに合わせて作成するか、書き文字にするか…の判断は毎回迷います。『自閉症のぼくは書くことで息をする』はタイトルに描き文字を使用していますね。
ダーラ・マカナルティ著 近藤隆文訳
(辰巳出版/2022年)
装画:末山りん 四六判
西村 書名が一人称なので、書き文字が似合うなと。これは弊社のスタッフOさんの字。普段から身近な人の筆跡を観察して、今度こんな内容の依頼がきたらあの人にタイトルを書いてもらおうとストックしています。
草苅 原稿に添えられた一筆箋(いっぴつせん)の筆跡が気になったり。店員さんの書く領収書とか。機会があればサイコな殺人犯の犯行声明文を書いてほしい編集者がいたり。客観的にデザイン出来なくなるからか自分の文字は使いづらいですが。
西村 わかります。自分で書くと作為的でヤな感じになってしまう(笑)。
草苅 昭和の芸能界を舞台にした村山由佳さんの『星屑』はアイドルのサインのようなロゴにしたかったのですが、可読性を上げるのに苦労しました。
『星屑』村山由佳
(幻冬舎/2022年)
装画:banishment 四六判
西村 ぱっと見て昭和のスターのお話だって分かりやすい。一度活字フォントも検討して、最終的に元の描き文字に決まったよね。手数をかけてタイトルロゴを作成しても編集者に見てもらう前に、既成のフォントに変更することも多いです。デザイナーが達成感を味わいたいだけなのかもしれない、と悩んだり。
草苅 作家が書いた文字をそのままタイトルロゴにした方が良かったりね。ヨシタケシンスケさんがイラストを担当する本は大体ヨシタケさんの書き文字を使用しています。独特の滋味があってとても印象的。〈世界ショートセレクション〉シリーズは20冊出ていますが、並べるとタイトルの文字の静かな強さを実感できます。
(理論社)
装画:ヨシタケシンスケ 四六判
西村 書き文字は情感が活字よりビビッドに伝わるように思います。少し前から流れるような書き文字のタイトルロゴが流行(はや)っているぶん、選択するときは慎重になります。不採用になったとしてもロゴを作る工程で解ることも多くて。一度試してみることは大事だなと思います。
この記事は〈紙魚の手帖〉vol.06(2022年8月号)に掲載された記事を転載したものです。