このインパクト抜群のタイトルを目にして、そのまま見過ごせる本格ミステリファンがいるだろうか。東川篤哉(ひがしがわ・とくや)『仕掛島(しかけじま)』(東京創元社 一八〇〇円+税)は、帯の惹句(じゃっく)に「東川篤哉長編史上、最大最長最新傑作!」とある通り、著者の持ち味と驚きのアイデアがたっぷり詰まった四百ページを越えるボリュームの長編作品だ。
瀬戸内海(せとないかい)に浮かぶ孤島――斜島(ななめじま)には、「御影荘(みかげそう)」と称する屋上の中央部分に巨大な球体を擁(よう)した奇妙な建物があった。岡山経済界の巨星――故・西大寺吾郎(さいだいじ・ごろう)の別荘であるそこに、一通目の遺言状に従って集められた親族たち。二通目の遺言状開封を託された弁護士の矢野沙耶香(やの・さやか)により、相続内容の読み上げは無事に終わるが、翌朝事件が起こる。私立探偵の小早川隆生(こばやかわ・たかお)が捜し連れてきた好ましからざる相続人のひとりが、まるで集団リンチにでもあったかのように傷ついた死体となって発見される。折しも台風接近による暴風雨で警察も近づけない状況のなか、調査に乗り出す探偵と弁護士。宙に浮く赤鬼の目撃や展望室から搔き消えた人物といった不可解な謎、二十三年前の事件、そして夜釣りに訪れた少年たちが経験した、忽然(こつぜん)と海中から飛び出して高々と舞い上がる白い服の男や海を泳ぐ竜といった怪現象を結ぶ、まさかの真相とは……。
未読でも差し支えないが、本作は『館島(やかたじま)』(二〇〇五年)の続編という位置づけの内容になっている。あの銀色の館の事件のその後を知ることができるのも愉(たの)しみのひとつだが、なんといっても一番の読みどころは前作に勝るとも劣らない奇想天外な仕掛けだ。
舞台そのものに何かが施されていることはタイトルから容易に想像できるが、殺害方法に絡む大掛かりなからくりには、なんとまあスゴイことを考えるものだと仰天(この死に方はイヤですなあ)。ある人物の設定や遊び心と思われた横溝正史(よこみぞ・せいし)パロディも、この大胆不敵なアイデアのためのちゃんとした理由付けになっており、ユーモアやコメディ要素を物語の彩(いろど)りだけではなく細やかに使いこなし、本格ミステリとして巧みに機能させる著者ならではの手腕に改めて感心した。作家生活二十年のキャリアのなかでも指折りかつ、とくに忘れがたい作品だ。
■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。