神戸に住むかりんは、お菓子作りが得意な高校生。亡くなった祖母の七回忌で、遺品の中にあったドイツ語の児童文学らしい本に興味をひかれ、ドイツ語を勉強中の大学生の従兄慧(けい)に訳してもらい、一緒に読んでいくことにする。
 祖母は神戸の空襲があった直後にひとりでいるところを、かりんたちの曾祖母であるカネに助けられた。後に恵美子と名づけられる彼女は日本人ではなく、西洋人の顔立ちでドイツ語を話した。カネに娘として引き取られ育てられた恵美子は、結婚して子供や孫に恵まれても、一切カネに拾われる前のことは語らなかったという。
 ただ孫である幼い頃の慧を連れて本屋に行ったとき、一冊の外国語の本を手に取って、大切そうに抱きしめたのだという。それが遺品にあったドイツ語の本だった。

 そこに書かれていたのは、十九世紀末、ドレスデン郊外のキルシュバウムにある女子寄宿学校を舞台にした物語だった。赤ずきん伝説の残る不思議な森、学校でささやかれる幽霊狼の噂、校内に隠された予言の書と宝物の言い伝え。
 転校生ロッテは、仲間の少女たちとともに学校に伝わる謎に挑むうち、思いもかけなかった大きな事件にまきこまれてゆく……。

 ロッテの物語を読んでいるかりんと慧は、やがてお話と現実を結ぶ奇妙な糸に気づく。そして浮かんできたのは……。

『ぬばたまおろち、しらたまおろち』の著者がグリム童話をもとに描いた神戸とドイツの不思議な絆の物語。


赤ずきんの森の少女たち (創元推理文庫)
白鷺あおい
東京創元社
2023-02-13