はじめまして。
KMさんに続いて入社いたしました、見習い編集者その2こと、SF班(弟)です。よろしくお願いいたします。
一般文芸やミステリにはじまり、SFやファンタジイやホラー……。あらゆるジャンルの小説を掲載してきた総合文芸誌『紙魚の手帖』も、早くも創刊から一年あまり。
今回はその中でもSFに焦点を当てて、創刊号から最新号のvol.8までに掲載された短編をどんどん振り返ります。
SFがお好きなあなたも、まだ知らなかった作品が見つかるはず(?)
***
・石川宗生「108の妻」イラスト:本気鈴
点描の妻、夢見る妻、革命家の妻、お品書きの妻…… 様々な「妻」をお楽しみください。
『紙魚の手帖 vol.2』
・パトリック・ネス「新世界」訳:樋渡正人
目の前に広がる美しい惑星、入植船から新しい世界を見た少女ヴァイオラは……。『心のナイフ』前日譚にあたるスピンオフ短編
荒廃した惑星――「旧世界」から、居住可能と思われた「新世界」へと、長い航海を続けてきた船。最初の降下要員に選ばれた一家の娘には、皆が語る「希望」が信じきれません。ヤングアダルトSFの人気シリーズ〈混沌の叫び〉に連なる小さな挿話。
・S・チョウイー・ルウ「沈黙のねうち」訳:勝山海百合、イラスト:丹地陽子
言語能力を売買できるようになった近未来。移民の母は娘の将来のため、重大な決断を迫られる
バイリンガルのあなたの母語を、もしも八十万ドルで売れるとしたら?――思い切った道具立てによって言語とアイデンティティの問題に踏み込んだ、読む者の心へ痛切に訴えかける作品。
・空木春宵「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」イラスト:machina
その者の二つ名は、《魔女達の魔女》。『感応グラン=ギニョル』で鮮烈なデビューを果たした著者最新作。
VR空間に活躍の場を見出した現代の魔女たちと、凄惨な「魔女狩り」に血道を上げる男性優位主義者の〈騎士団〉。現実と地続きの構図に対し、常に姿を変えながらも続いてきた魔女の歴史が、固定化された役割から抜け出すすべを示します。
・酉島伝法「無常商店街」イラスト:カシワイ
姉に猫の世話を頼まれ、曰くつきの町に滞在することになった翻訳家の主人公。「商店街には近づかないように」と警告されていたが……
卓越した言語感覚によって紡ぎ出された、脱出困難の商店街へようこそ。ごくごく正常な日常語ではじまる導入部に気を緩めたが最後、不意に現れた深みに足をとられること間違いなしです。
・川野芽生「さいはての実るころ」イラスト:山田緑
機械の身体を持つ青年の前に現れた、植物に身を覆われた少女。注目の幻想作家・川野芽生最新作
生存のため、それぞれに変わり果てた姿を選んだ人類の運命を描く、鮮やかなイメージに彩られた終末SF。「最果ての実り」に題を改めて、『無垢なる花たちのためのユートピア』に収録されています。
『紙魚の手帖 vol.3』
・イザベル・フォール「私の性自認は攻撃ヘリ」訳:中原尚哉、イラスト:加藤直之
発表直後から大議論を呼んだヒューゴー賞候補の問題作、ついに邦訳
戦闘に最適化された形でジェンダーを書き換えるという大胆な設定を、ソリッドな文体がしっかりと支える実力作。表題に関する背景と、本作をめぐる議論の経緯については、本編に付された編集部解説をお読みください。
・倉田タカシ「おうち」イラスト:秦直也
わたしがかつて暮らし、自ら出て行った家は、“人間の言葉を理解する”という猫たちの家になっていた
ペット医学の進歩によって猫の寿命が伸び、人の言葉を操る個体があらわれはじめた世界。猫とのままならないコミュニケーションに頭を悩ませながら、「わたし」は思い入れ深い絵を求めてかつての家を探索します。
・松樹凛「影たちのいたところ」イラスト:鈴木康士
八月、夕暮れの浜辺で少女が出会ったのは、“影”を連れた少年だった。第12回創元SF短編賞受賞第一作
いつもホラ話ばかりのおばあちゃんが語りだしたのは、とある寂れた島で夏休みを過ごす少女の物語。難民問題に揺れる近未来のイタリアを舞台に、散りばめられたピースが見事に結びつく幻想小説です。
『紙魚の手帖 vol.4』
・藤井太洋「まるで渡り鳥のように」
動物は故郷を目指して“渡り”をする。そして宇宙に進出した人類も――現代SFの最先端!
宇宙空間へと進出し、月や火星に住むようになっても、春節が来るといっせいに地球への帰省を開始する華人たち。里帰りに並々ならぬ情熱を傾ける彼らと、彼方を目指して探索に旅立つ人々の間には、不可避にも思えるジレンマが生じます。中国語訳、英訳での発表を経て、Webマガジン「VG+(バゴプラ)」で公開されたのち、最終的に紙媒体の本誌に掲載された作品。
『紙魚の手帖 vol.5』
・溝渕久美子「台北パテーベビー倶楽部」イラスト:おきおよぐあじ
一九三二年、台北。家族に疎まれ海を渡った二人は、この街で出会った。第12回創元SF短編賞優秀賞受賞第一作
パテーベビーとは一九二〇年代から三〇年代にかけて流通した、個人向け映画システムの呼び名のこと。あるフィルムアーカイブに届けられた「危険なフィルム」と、同封されていた古い日記帳から、映像をめぐる女性たちの物語が立ち上がります。
『紙魚の手帖 vol.6』
・小田雅久仁「古池町綺譚」イラスト:tounami
いつも、“きのうのつづき”を願った妻は、通り魔に襲われて死んだ。以来、喪失感を抱えて生きる夫は、ある日奇妙な町に迷い込む
真夏のホラー特集に寄せられた、怪奇幻想小説の名手・小田雅久仁さんの短編。理不尽に訪れた死別の悲しみ、終わることのない憔悴の日々、夏祭りが続く異界の空気までを、じっくりと描きだすスタイルが魅力です。
・久永実木彦「わたしたちの怪獣」イラスト:鈴木康士
わたしはこれから、お父さんの死体を棄てにいく。怪獣の暴れる東京に――
免許とりたての初ドライブ♪ けれどトランクには父親の死体……。家族のわだかまりと東京の危機が奇妙に絡み合う、他にはない読み味の怪獣小説です。つい先日には第43回日本SF大賞の最終候補作に選出され、短編としては異例のノミネートが話題となりました。
『紙魚の手帖 vol.8』
・高山羽根子「祀りの生きもの」イラスト:山内尚
神社のおまつりで手に入れた不思議な生きもの。その正体はゆらゆらと曖昧でよくわからないまま
縁日では「生きものと食べもの」を買ってはいけないという言いつけを破って、「わたし」が買い求めた生きものとは……。「冠婚葬祭」をテーマとした読み切り特集に、「祭」モチーフの作品として寄せられた短編です。
・サラ・ピンスカー「オークの心臓集まるところ」訳:市田泉
古いバラッドについての推理は、恐るべき真相に近づき……二〇二二年ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作
オンライン掲示板での議論という形式で書かれた、バラッド「オークの心臓集まるところ」の謎めいた歌詞にまつわる物語。突飛な解釈を披露する者、先行研究の存在を指摘する者……それぞれのやり方で謎に取り組むユーザーたちの中に、あるとき歌詞の舞台への現地取材を試みる者が現れます。
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ここまで駆け足で振り返ってきましたが、気になる作品は見つかりましたでしょうか? 『紙魚の手帖』バックナンバーは電子書籍でもお買い求めいただけます。この機会にぜひ本編をどうぞ。
KMさんに続いて入社いたしました、見習い編集者その2こと、SF班(弟)です。よろしくお願いいたします。
一般文芸やミステリにはじまり、SFやファンタジイやホラー……。あらゆるジャンルの小説を掲載してきた総合文芸誌『紙魚の手帖』も、早くも創刊から一年あまり。
今回はその中でもSFに焦点を当てて、創刊号から最新号のvol.8までに掲載された短編をどんどん振り返ります。
SFがお好きなあなたも、まだ知らなかった作品が見つかるはず(?)
***
・石川宗生「108の妻」イラスト:本気鈴
点描の妻、夢見る妻、革命家の妻、お品書きの妻…… 様々な「妻」をお楽しみください。
第7回創元SF短編賞受賞作を含む第一作品集『半分世界』以来、巧みな奇想小説を発表し続けてきた石川宗生さんによる、ユーモアに富んだ断章形式の小品。何通りもの目まぐるしい夫婦生活を、万華鏡を覗き込むようにしてご覧あれ。
『紙魚の手帖 vol.2』
・パトリック・ネス「新世界」訳:樋渡正人
目の前に広がる美しい惑星、入植船から新しい世界を見た少女ヴァイオラは……。『心のナイフ』前日譚にあたるスピンオフ短編
荒廃した惑星――「旧世界」から、居住可能と思われた「新世界」へと、長い航海を続けてきた船。最初の降下要員に選ばれた一家の娘には、皆が語る「希望」が信じきれません。ヤングアダルトSFの人気シリーズ〈混沌の叫び〉に連なる小さな挿話。
・S・チョウイー・ルウ「沈黙のねうち」訳:勝山海百合、イラスト:丹地陽子
言語能力を売買できるようになった近未来。移民の母は娘の将来のため、重大な決断を迫られる
バイリンガルのあなたの母語を、もしも八十万ドルで売れるとしたら?――思い切った道具立てによって言語とアイデンティティの問題に踏み込んだ、読む者の心へ痛切に訴えかける作品。
・空木春宵「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」イラスト:machina
その者の二つ名は、《魔女達の魔女》。『感応グラン=ギニョル』で鮮烈なデビューを果たした著者最新作。
VR空間に活躍の場を見出した現代の魔女たちと、凄惨な「魔女狩り」に血道を上げる男性優位主義者の〈騎士団〉。現実と地続きの構図に対し、常に姿を変えながらも続いてきた魔女の歴史が、固定化された役割から抜け出すすべを示します。
・酉島伝法「無常商店街」イラスト:カシワイ
姉に猫の世話を頼まれ、曰くつきの町に滞在することになった翻訳家の主人公。「商店街には近づかないように」と警告されていたが……
卓越した言語感覚によって紡ぎ出された、脱出困難の商店街へようこそ。ごくごく正常な日常語ではじまる導入部に気を緩めたが最後、不意に現れた深みに足をとられること間違いなしです。
・川野芽生「さいはての実るころ」イラスト:山田緑
機械の身体を持つ青年の前に現れた、植物に身を覆われた少女。注目の幻想作家・川野芽生最新作
生存のため、それぞれに変わり果てた姿を選んだ人類の運命を描く、鮮やかなイメージに彩られた終末SF。「最果ての実り」に題を改めて、『無垢なる花たちのためのユートピア』に収録されています。
『紙魚の手帖 vol.3』
・イザベル・フォール「私の性自認は攻撃ヘリ」訳:中原尚哉、イラスト:加藤直之
発表直後から大議論を呼んだヒューゴー賞候補の問題作、ついに邦訳
戦闘に最適化された形でジェンダーを書き換えるという大胆な設定を、ソリッドな文体がしっかりと支える実力作。表題に関する背景と、本作をめぐる議論の経緯については、本編に付された編集部解説をお読みください。
・倉田タカシ「おうち」イラスト:秦直也
わたしがかつて暮らし、自ら出て行った家は、“人間の言葉を理解する”という猫たちの家になっていた
ペット医学の進歩によって猫の寿命が伸び、人の言葉を操る個体があらわれはじめた世界。猫とのままならないコミュニケーションに頭を悩ませながら、「わたし」は思い入れ深い絵を求めてかつての家を探索します。
・松樹凛「影たちのいたところ」イラスト:鈴木康士
八月、夕暮れの浜辺で少女が出会ったのは、“影”を連れた少年だった。第12回創元SF短編賞受賞第一作
いつもホラ話ばかりのおばあちゃんが語りだしたのは、とある寂れた島で夏休みを過ごす少女の物語。難民問題に揺れる近未来のイタリアを舞台に、散りばめられたピースが見事に結びつく幻想小説です。
『紙魚の手帖 vol.4』
・藤井太洋「まるで渡り鳥のように」
動物は故郷を目指して“渡り”をする。そして宇宙に進出した人類も――現代SFの最先端!
宇宙空間へと進出し、月や火星に住むようになっても、春節が来るといっせいに地球への帰省を開始する華人たち。里帰りに並々ならぬ情熱を傾ける彼らと、彼方を目指して探索に旅立つ人々の間には、不可避にも思えるジレンマが生じます。中国語訳、英訳での発表を経て、Webマガジン「VG+(バゴプラ)」で公開されたのち、最終的に紙媒体の本誌に掲載された作品。
『紙魚の手帖 vol.5』
・溝渕久美子「台北パテーベビー倶楽部」イラスト:おきおよぐあじ
一九三二年、台北。家族に疎まれ海を渡った二人は、この街で出会った。第12回創元SF短編賞優秀賞受賞第一作
パテーベビーとは一九二〇年代から三〇年代にかけて流通した、個人向け映画システムの呼び名のこと。あるフィルムアーカイブに届けられた「危険なフィルム」と、同封されていた古い日記帳から、映像をめぐる女性たちの物語が立ち上がります。
『紙魚の手帖 vol.6』
・小田雅久仁「古池町綺譚」イラスト:tounami
いつも、“きのうのつづき”を願った妻は、通り魔に襲われて死んだ。以来、喪失感を抱えて生きる夫は、ある日奇妙な町に迷い込む
真夏のホラー特集に寄せられた、怪奇幻想小説の名手・小田雅久仁さんの短編。理不尽に訪れた死別の悲しみ、終わることのない憔悴の日々、夏祭りが続く異界の空気までを、じっくりと描きだすスタイルが魅力です。
・久永実木彦「わたしたちの怪獣」イラスト:鈴木康士
わたしはこれから、お父さんの死体を棄てにいく。怪獣の暴れる東京に――
免許とりたての初ドライブ♪ けれどトランクには父親の死体……。家族のわだかまりと東京の危機が奇妙に絡み合う、他にはない読み味の怪獣小説です。つい先日には第43回日本SF大賞の最終候補作に選出され、短編としては異例のノミネートが話題となりました。
『紙魚の手帖 vol.8』
・高山羽根子「祀りの生きもの」イラスト:山内尚
神社のおまつりで手に入れた不思議な生きもの。その正体はゆらゆらと曖昧でよくわからないまま
縁日では「生きものと食べもの」を買ってはいけないという言いつけを破って、「わたし」が買い求めた生きものとは……。「冠婚葬祭」をテーマとした読み切り特集に、「祭」モチーフの作品として寄せられた短編です。
・サラ・ピンスカー「オークの心臓集まるところ」訳:市田泉
古いバラッドについての推理は、恐るべき真相に近づき……二〇二二年ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作
オンライン掲示板での議論という形式で書かれた、バラッド「オークの心臓集まるところ」の謎めいた歌詞にまつわる物語。突飛な解釈を披露する者、先行研究の存在を指摘する者……それぞれのやり方で謎に取り組むユーザーたちの中に、あるとき歌詞の舞台への現地取材を試みる者が現れます。
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ここまで駆け足で振り返ってきましたが、気になる作品は見つかりましたでしょうか? 『紙魚の手帖』バックナンバーは電子書籍でもお買い求めいただけます。この機会にぜひ本編をどうぞ。
それではまた、次回の日誌でお会いしましょう。