床品美帆(ゆかしな・みほ)『431秒後の殺人 京都辻占(つじうら)探偵六角(ろっかく)』(東京創元社 1800円+税)は、〝古都・京都の21世紀型不可能犯罪!〟〝全編ハウダニットのデビュー作〟という惹句(じゃっく)に胸が高鳴る連作集。

 深夜の交差点で、角地に建つビルの屋上から落下したコンクリートブロックが歩いていた松原京介(まつばら・きょうすけ)の頭を直撃する不運な死亡事故が起こる。だが若手カメラマンの安見直行(やすみ・なおゆき)だけは、これが幼い頃から世話になった松原を狙った、彼の妻による計画的な殺人だとにらむ。けれど屋上へ上がることなく凶器を落とし、しかも歩く人間の頭にピンポイントで当てる方法がわからない。すると直行は祖母から「六角さんに相談してみなさい」と告げられる。なんでも〈六角法衣店〉の店主は代々占い師も兼ねており、古くからこの界隈(かいわい)で困り事があると頼られてきたというのだが……。

 探偵役の不愛想な若き店主――六角聡明(そうめい)との邂逅(かいこう)と前述の不可解な事件の解明を描いた表題作をはじめ、収録された計五つのエピソードはいずれも不可能犯罪ものばかり。なかにはかなりアクロバティックで成功が難しそうな機械的な仕掛けもあるが、六角の語りによってみるみる説得力が増し、最後には確かな答えとして屹立(きつりつ)してしまう流れるような手順が素晴らしい。

 そして表題作ではまだお互いに距離のあった直行と六角が、エピソードを経るごとにつながりを深めていく関係性の変化も美点のひとつ。最終話「立ち消える死者の殺人」は、六角が少年の時分に病室から忽然(こつぜん)と姿を消してしまった母親の一件が絡(から)む内容で、直行が六角とふたり乗りで自転車を走らせる終盤のシーンがしみじみとして忘れがたい。

 そう遠くないうちに、第十六回ミステリーズ!新人賞受賞後に改題された短編「二万人の目撃者」を含む作品集も上梓(じょうし)されるようだが、また本作のコンビにも会える日を鶴首(かくしゅ)して待ちたい。

 リーガルミステリと青春小説を融合した作風で独自の路線をひた足る、現役弁護士作家の五十嵐律人(いがらし・りつと)。『六法推理』(KADOKAWA 1700円+税)は、弁護士の著者ならではの持ち味を活かしつつ、よりキャラクターノベル的な色合いを出して新たな魅力を発揮した連作集。

 霞山(かざん)大学法学部四年の古城行成(こじょう・ゆきなり)は、法曹(ほうそう)一家に生まれ育ち、学内で「無料法律相談所」通称〝無法律〟を運営していた。

 学園祭当日、経済学部三年の戸賀夏倫(とが・かりん)が訪ねてくる。いわく、彼女の借りたアパートの部屋は以前に女子大生が首を吊った事故物件で、当時部屋には出産した痕跡があったらしいのだが、赤ん坊の姿はどこにもなかったという。そんな部屋だからだろうか、深夜になると赤ん坊の泣き声で目が覚めることが続いているという……。

 この不可解で不気味な謎の解明をきっかけに、無法律に出入りするようになった戸賀は、古城の助手として立ち回るようになり、リベンジポルノ、放火、毒親、カンニングといった数々の難題に取り組むことになる。

 法律マシーンの古城と閃(ひらめ)きに長(た)けた戸賀が多重解決を繰り広げながらお互いを補(おぎな)い合う内容で、見た目はライトテイストだが、各話の真相は「法律を軽んずるなかれ」という意識もあるのか、ズシリと重い。著者はデビュー以降、単発の長編が続いていたが、本作の続刊にも大いに期待したい。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

紙魚の手帖Vol.05
倉知淳ほか
東京創元社
2022-06-13