創元推理文庫では2021年4月から、〈日本ハードボイルド全集〉全7巻を刊行開始しました。
日本におけるハードボイルドの歴史――特にその草創期において重要な役割を果たした6人の作家をひとり1冊にまとめ、最終巻となる第7巻は1作家1編を選んだ傑作集とする――本全集は、そんなコンセプトからなる文庫内叢書です。収録される作家および作品選定を務めるのは北上次郎、日下三蔵、杉江松恋の書評家三氏。お三方のうちひとりが各巻の責任編集となり、残るふたりがそれをサポートするかたちでの、鉄壁の布陣となります。
7月20日に発売された第6回配本は、杉江松恋氏が責任編集を務める、結城昌治を特集した第5巻『幻の殺意/夜が暗いように』。個人の巻としては本書が最後となります。ユーモア本格『ひげのある男たち』、スパイ小説の先駆『ゴメスの名はゴメス』、日本推理作家協会賞を受賞した警察小説『夜の終る時』、直木賞受賞の連作短編集『軍旗はためく下に』、さらには評伝小説『志ん生一代』等々……多彩な作風で知られる結城昌治の、ハードボイルド分野での成果をまとめた一冊となります。
『幻の殺意』(長編)
「霧が流れた」
「風が過ぎた」
「夜が暗いように」
「死んだ依頼人」
「遠慮した身代金」
「霧が流れた」
「風が過ぎた」
「夜が暗いように」
「死んだ依頼人」
「遠慮した身代金」
「風の嗚咽」
「きたない仕事」
「すべてを賭けて」
「バラの耳飾り」
高校生の息子が殺人犯として逮捕された! 平凡な会社員である田代の身にある日突然もたらされた悲報。あくまで息子の無実を信じる男が、ぎこちない探偵行の果てに知る真実とは……。映画化もされた忘れがたき傑作長編『幻の殺意』を巻頭に、『暗い落日』などで知られる私立探偵・真木が登場するすべての短編(「霧が流れた」「風が過ぎた」「夜が暗いように」)、通俗ハードボイルドの楽しさあふれる佐久&久里の連作、真木シリーズと並ぶシリアスタッチの紺野弁護士もの……さらにはノンシリーズや後期の秀作など合わせて9短編を収録し、結城昌治のハードボイルド小説での業績を総括した、入門編に最適の一冊です。
巻末の書き下ろしエッセイは志水辰夫先生による「異能の人」。生前会うことはかなわなかったものの、長年にわたり結城作品の熱心な読者であった志水先生が、ハードボイルド以外の結城作品も含めてその魅力を熱く語られています。
そして解説は書評家の霜月蒼氏が執筆。結城昌治のハードボイルド観と作家活動においての実作の変遷を丁寧に読み解いていく、あふれる結城愛とたしかな分析が論の両輪として作用した、見事な解説にして結城ハードボイルド論となっております。エッセイ、解説も本編と合わせ必読の内容です。
次回はいよいよ最終巻となる第7巻『傑作集(仮)』。惜しくも一巻とはならなかったものの、国産ハードボイルドの歴史を語る際には欠かせない作家たちの短編をひとり一編で収録するアンソロジーをもって、〈日本ハードボイルド全集〉は完結を迎えます。最後までよろしくお願いいたします。
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〈日本ハードボイルド全集〉全7巻◎創元推理文庫
北上次郎・日下三蔵・杉江松恋=編
1 生島治郎『死者だけが血を流す/淋しがりやのキング』
収録作品=『死者だけが血を流す』「チャイナタウン・ブルース」「淋しがりやのキング」「甘い汁」「血が足りない」「夜も昼も」「浪漫渡世」
巻末エッセイ=大沢在昌/解説=北上次郎
2 大藪春彦『野獣死すべし/無法街の死』
収録作品=「野獣死すべし」『無法街の死』「狙われた女」「国道一号線」「廃銃」「乳房に拳銃」「白い夏」「殺してやる」「暗い星の下で」
巻末エッセイ=馳星周/解説=杉江松恋
3 河野典生『他人の城/憎悪のかたち』
収録作品=『他人の城』「憎悪のかたち」「溺死クラブ」「殺しに行く」「ガラスの街」「腐ったオリーブ」
巻末エッセイ=太田忠司/解説=池上冬樹
4 仁木悦子『冷えきった街/緋の記憶』
収録作品=『冷えきった街』「色彩の夏」「しめっぽい季節」「美しの五月」「緋の記憶」「数列と人魚」
巻末エッセイ=若竹七海/解説=新保博久
5 結城昌治『幻の殺意/夜が暗いように』
収録作品=『幻の殺意』「霧が流れた」「風が過ぎた」「夜が暗いように」「死んだ依頼人」「遠慮した身代金」「風の嗚咽」「きたない仕事」「すべてを賭けて」「バラの耳飾り」
巻末エッセイ=志水辰夫/解説=霜月蒼
6 都筑道夫『酔いどれ探偵/二日酔い広場』
収録作品=『酔いどれ探偵』全編/『二日酔い広場』全編
巻末エッセイ=香納諒一/解説=日下三蔵
7 傑作集
収録作品=