人間より大きく優れた能力をもつ動物、人外が闊歩する世界を舞台に、父親である皇帝殺しの無実の罪で捕らえられた変わり者の少女アルスルの闘いと成長を描いたファンタジイ、『皇女アルスルと角の王』。主人公アルスルはもちろん、沢山登場する動物たち、そして独特の世界観も魅力です。
この作品がどうして生まれたか、著者の鈴森先生のここだけのあとがきを、お楽しみください。 あとがき
すべてのアニマルファンに贈りたい、あるいは非アニマルファンを、アニマル沼へと引きずりこむための一冊――。
それが、『皇女アルスルと角の王』です。
本作は、動物好きの編集者様、動物たちへの愛にあふれた絵を描かれるイラストレーター様、動物狂の著者が三位一体となったからこそ生まれました。お二人はもちろんのこと、今日までお世話になったすべての方に深くお礼を申し上げます。
私は生まれたときから、そばにイヌたちがいました。
メスとオスのシェットランド・シープドッグ(シェルティ)です。シェルティは、ふわっふわ、もっこもこの飾り毛がすばらしい犬種。両親が共働きだったこともあり、長女長男である二匹は、とても優しく、根気強く、赤ん坊だった私の面倒を見てくれました。ハイハイをしたり、床に寝転がっていることが多かった私は、自分より大きなイヌを見上げては、ぬいぐるみがわりにずっと抱きしめていたそうです。そうしたおぼろげな記憶が、今回、人間より大きなイヌやネコが登場するアイデアにつながったと思います。
そして、現在。生粋の動物好きに成長した私は、次男オカメインコ、次女シェルティ、三女ボーダーコリー、うちの庭で生まれた食客ネコ兄妹、熱帯魚たちとともに暮らしています。よもや彼ら彼女らも、私がこんなファンタジイ小説を書くほどアニマル沼にはまっているとは、知らなかったでしょう。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、『皇女アルスルと角の王』は、前作にあたる『忘却城』シリーズと地続きの世界が舞台となっています。
この世界には、人外とよばれる不思議な獣たちがそこら中にいて、人間と密接にかかわり、あるいはまったくかかわらず、またあるいはときどきちょっかいをかけたりして、長い年月を生きています。『忘却城』シリーズは死者がテーマでしたが、本作では、この人外――イヌネコやウマの生態をメインテーマにしました。この世界を楽しんでいただければ幸いです。
近年、ペットと人間の絆が深まる一方で、産業動物として、苦しんだり、殺されてしまう生きものたちがあまりにも多いことが知られるようになっています。
この本を手にとってくださったみなさま。
読了後、どうか、うちの子やよその子を、抱きしめてくださいますよう!
みなさまが、その子たちとずっと笑顔で楽しくすごしてくださることを、心よりお祈りしております。
最後になりますが、この場を借りて、私を支えてくださった方々に謝辞を。
石井先生、故阪本先生、H・O先生、一柳先生、担当編集の小林様および東京創元社の皆様、ねこ助様、読者の方々と、親族と友人たち、そして最愛のお母さんへ。
感謝の言葉を贈ります。
鈴森琴
そう、「ここだけのあとがき」にもあるように、『皇女アルスルと角の王』は鈴森先生の前作『忘却城』のシリーズと地続きなのです。
簡単な年表を公開します。『忘却城』シリーズをお読みの方は、前作との関係を想像して楽しんでいただければと思います。
※『皇女アルスルと角の王』の時間から見た年表です。
■鈴森琴(すずもり・こと)
東京都出身。玉川大学文学部卒業。2018年、『忘却城』(応募時のタイトルは『忘却城の界人(さかいびと)』)が第3回創元ファンタジイ新人賞佳作に選出される。