囲碁で強くなるには、まず定石の勉強は欠かせない。定石には戦いの技術と力、そして手筋の要素が多く含まれていて、戦闘力を育てるには定石ほど効果のあるものはない。また定石は一局の中で一般的には四回登場する。勉強していないと四隅で確実に損をする。従って四隅でポイントを上げることで勝率を高め、全局的な戦いの技術を身に着けられる定石の勉強は高段者になるためには必須のことである。

 定石は、まず手順を覚える。それから周辺の配石による有利不利の判断する能力を育てる。そして、それだけでなく定石の使い方、つまり定石後の手法を覚えなければならない。しかし自分だけが旨く打っても、相手が定石とおりに打ってくるとは限らないし、自分の碁風(攻撃型か守備型か)と違う定石選択をすれば旨くいかないこともある。定石を身に着けることは大変なことなのである。

 そうやって身に着けた定石にも流行がある。数年単位で価値観が変わり、結果が変化する。また同じ定石でも、黒番と白番では結果が違ってくる。また秀策のコスミが時代遅れと言われていたが、現在ではその価値が再評価されている。

 転換期という言葉がある。以前行われていたことが何かをきっかけに廃れ、大きく移り変わる。木綿の登場で人々の生活が大きく変化したとか、蒸気機関の応用で産業革命が始まったとか、取り上げたらキリがない。囲碁に於いてもアルファ碁の登場は、画期的なことだと思われる。死活とか手筋の価値は変わることはなくても、定石の価値観はアルファ碁の登場で大きく変わった。アルファ碁は実利を先に確保し、先手を大事にする、以外と思うかもしれないが、アルファ碁の本質は守りの碁風であり、そのため現代の囲碁は、まず何よりも「先手」を取ることを主眼にするようになってきた。

 本書は、既存の定石と理論を基本手順、配石状況、定石以降の三段階に分けて説明し、アルファ碁時代に通じる定石と理論を解説している。高目、目外し、三々の定石があまり打たれなくなった過程や過去の定石で重要と考えられていた変化が価値を落としてしまった理由も明らかにしている。本書によって定石の何たるかを理解できれば、棋力の向上は間違いのないことである。