『神と王 亡国の書』(文春文庫 710円+税)は、《神様の御用人》で人気の浅葉(あさば)なつが、神と為政者や国家との関係に真っ向から挑んだ新シリーズだ。
六百年の歴史を持つ弓可留(ゆつかる)国が、隣国・沈寧(じんねい)の侵略を受けて滅んだ。沈寧の王は侵略した国の王族を皆殺しにするだけではなく、神宝や国史を奪い、信仰や歴史を改竄(かいざん)することで過去に遡(さかのぼ)り自国の支配下に位置づける。ところが、沈寧軍がどれだけ捜索しても、弓可留の神宝「弓(ゆみ)の心臓(しんぞう)」を発見することができなかった。その「弓の心臓」を王子より託され、王宮を脱出した歴史学者の慈空(じくう)は、身を隠して働く旅籠(はたご)で奇妙なふたり連れの訪問を受けていた。彼らは、この世界を作った神の存在を示す手がかりとして「弓の心臓」を探しているというのだが……。
国家支配の方便として利用される神、現世利益のために拝まれる神、国家存亡の非常時においてさえ祈りに応えてくれない神。神とはいったい何なのかを問う。序章で『古事記』の国生み神話を引用、「ではその天(あめ)の沼矛(ぬぼこ)はどこからやってきたのか」という謎かけで結び、物語が辿り着こうとしている先と、スケールの大きさを予感させる。その長い探求の手掛かりが、神宝の地衣類だというアプローチにもわくわくさせられる。
三川(みかわ)みり『龍ノ国幻想2 天翔(あまかけ)る縁(えにし)』(新潮文庫nex 750円+税)は、龍が棲む国〈龍ノ原(たつのはら)〉を舞台にした架空古代王朝ファンタジイの第二巻。この国では女は生まれながらに龍の声を聞く能力を持つが、その力のない者は〈遊子(ゆうし)〉と呼ばれ迫害を受け、その声が聞こえる男子は禍皇子(まがつみこ)として処刑される。皇女ながらその能力を持たずに生まれたために男子と偽って育てられた日織(ひおり)は、悪法を改正するために皇位継承争いに名乗りをあげる。先代の皇尊(すめらみこと)の遺言でその娘を妻に迎えるのだが、なんと悠花(はるはな)皇女は実は禍皇子であった。
国家支配の方便として利用される神、現世利益のために拝まれる神、国家存亡の非常時においてさえ祈りに応えてくれない神。神とはいったい何なのかを問う。序章で『古事記』の国生み神話を引用、「ではその天(あめ)の沼矛(ぬぼこ)はどこからやってきたのか」という謎かけで結び、物語が辿り着こうとしている先と、スケールの大きさを予感させる。その長い探求の手掛かりが、神宝の地衣類だというアプローチにもわくわくさせられる。
三川(みかわ)みり『龍ノ国幻想2 天翔(あまかけ)る縁(えにし)』(新潮文庫nex 750円+税)は、龍が棲む国〈龍ノ原(たつのはら)〉を舞台にした架空古代王朝ファンタジイの第二巻。この国では女は生まれながらに龍の声を聞く能力を持つが、その力のない者は〈遊子(ゆうし)〉と呼ばれ迫害を受け、その声が聞こえる男子は禍皇子(まがつみこ)として処刑される。皇女ながらその能力を持たずに生まれたために男子と偽って育てられた日織(ひおり)は、悪法を改正するために皇位継承争いに名乗りをあげる。先代の皇尊(すめらみこと)の遺言でその娘を妻に迎えるのだが、なんと悠花(はるはな)皇女は実は禍皇子であった。
男女逆転の秘密を抱えたまま、皇位継承争いを制した日織と悠花。ところが、新しい皇尊の即位を龍ノ原に知らしめる宣儀(せんぎ)で、龍を呼ぶ笛の音が鳴らず、日織の呼びかけに応える龍は一頭もいなかった。笛をすり替えたのは誰なのか、そして日織が目撃した地面を歩く奇妙な龍の正体は……。龍と近しい神秘的な世界ながら、主人公にはその気配を感知する力がないという設定を逆手にとり、ミステリ色強めな展開で読者を物語世界に引きこむ。
『ガラスの顔』(児玉敦子訳 東京創元社 3500円+税)は、歴史ファンタジイ『噓の木』や『影を吞んだ少女』で高い評価を受けたフランシス・ハーディングの初期作。舞台は幾層にも重なる広大な地下世界だが、ここではなぜか、産まれた子どもに自然に表情が発生しない。子どもたちは《面(おも)》と呼ばれる表情パターンを学習して身に着け、状況に応じた《面》を選択する。上流階級は子供のうちに二百種ほどの《面》を叩きこまれるが、労働者階級は営業スマイルのみというような、貧富の差が表情の量に直結する。
『ガラスの顔』(児玉敦子訳 東京創元社 3500円+税)は、歴史ファンタジイ『噓の木』や『影を吞んだ少女』で高い評価を受けたフランシス・ハーディングの初期作。舞台は幾層にも重なる広大な地下世界だが、ここではなぜか、産まれた子どもに自然に表情が発生しない。子どもたちは《面(おも)》と呼ばれる表情パターンを学習して身に着け、状況に応じた《面》を選択する。上流階級は子供のうちに二百種ほどの《面》を叩きこまれるが、労働者階級は営業スマイルのみというような、貧富の差が表情の量に直結する。
さて、物語はチーズの匠(たくみ)が熟成トンネルに棲みつき、チーズを盗み食いする幼い女の子を捕まえるところから始まる。匠は少女の顔を見て衝撃を受ける。なんと彼女は、くるくると雄弁に変化する表情を持っていたのだ。過去の記憶を持たないその少女に、匠はネヴァフェルという名と、顔を隠す仮面を与え、自分の弟子として育てた。ところがある日、ネヴァフェルは逃げたウサギを追いかけて穴から飛び出し、地下都市へと迷いこんでしまう。表情と好奇心と空の記憶という、地下世界には存在しない衝動を抱えたネヴァフェルは、世界の扉を次々に開きそのたびに新たな厄介事に巻き込まれる。
世界の様相が開陳される前半はルイス・キャロルやチェスタートンを想起させるが、後半はナンセンスな方には向かわずパズル的要素が強め。感動の結末のあとにさらにもうひと仕掛けあるので、ファンタジイ読者は、エピローグまで気を抜かないように。
世界の様相が開陳される前半はルイス・キャロルやチェスタートンを想起させるが、後半はナンセンスな方には向かわずパズル的要素が強め。感動の結末のあとにさらにもうひと仕掛けあるので、ファンタジイ読者は、エピローグまで気を抜かないように。
■三村美衣(みむら・みい)
書評家。1962年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。共著書に『ライトノベル☆めった斬り!』が、共編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』がある。