創元推理文庫では2021年4月から、〈日本ハードボイルド全集〉全7巻を刊行開始しました。
日本におけるハードボイルドの歴史――特にその草創期において重要な役割を果たした6人の作家をひとり1冊にまとめ、最終巻となる第7巻は1作家1編を選んだ傑作集とする――本全集は、そんなコンセプトからなる文庫内叢書です。収録される作家および作品選定を務めるのは北上次郎、日下三蔵、杉江松恋の書評家三氏。お三方のうちひとりが各巻の責任編集となり、残るふたりがそれをサポートするかたちでの、鉄壁の布陣となります。
第5回配本として本日4月19日に発売となった第4巻『冷えきった街/緋の記憶』でまとめられたのは仁木悦子。責任編集は日下三蔵氏です。『猫は知っていた』で江戸川乱歩賞を受賞するや一躍人気作家となり、多くの傑作を著した仁木悦子は、「日本のクリスティ」と称されたように一般には謎解きものの作家として認知されていますが、レイモンド・チャンドラーを筆頭とするハードボイルド作品の愛読者で、自らも優れたハードボイルド作品を残しています。その代表格といえるのが、本書に収めた私立探偵・三影潤シリーズ。謎解きとしても、ハードボイルドとしても楽しめる稀有なシリーズから、今回は1長編5短編を収録しました。
『冷えきった街』(長編)
「色彩の夏」
「しめっぽい季節」
「美(うるわ)しの五月」
「緋の記憶」
「数列と人魚」
「色彩の夏」
「しめっぽい季節」
「美(うるわ)しの五月」
「緋の記憶」
「数列と人魚」
暴行、ガス中毒、誘拐予告……資産家の竪岡家に相次ぐ怪事件を解決するため、依頼されて屋敷を訪れた私立探偵・三影潤の眼前で起きた殺人事件の顛末を描く、シリーズ唯一の長編『冷えきった街』。仁木が得意とした、子供が重要なキーとなる展開が出色の「しめっぽい季節」「美しの五月」。女子大生が見た奇妙な夢が依頼のきっかけとなる「緋の記憶」……いずれも、謎解きミステリと私立探偵小説が高い次元で融合した、仁木悦子だからこそ書けた作品ぞろいです。
巻末の書き下ろしエッセイは若竹七海先生による「理想の系譜」。仁木作品との運命的な出会い、三影潤シリーズのハードボイルドとしての魅力を詳細かつ熱く語っていただき、私立探偵・葉村晶のシリーズはほかならぬ『冷えきった街』から大きな影響を受けている、と明言いただきました。
解説は書評家の新保博久氏が執筆。読者としての仁木悦子のハードボイルド嗜好についてまとめられ、実作としての成果である三影潤シリーズ執筆に至るまでを丹念に分析いただきました。全作品リストもついていますので、三影潤シリーズをさらに読んでみたいかたへの格好のガイドとなっております。
次回、2022年7月の刊行を予定している第6回配本は第5巻の結城昌治『幻の殺意/夜が暗いように(仮)』。傑作長編『幻の殺意』と、真木もの、佐久&久里もの、紺野弁護士もの、ノンシリーズ……と硬軟取り混ぜた9短編で、結城ハードボイルドの総括を試みます。
* * *
〈日本ハードボイルド全集〉全7巻◎創元推理文庫
北上次郎・日下三蔵・杉江松恋=編
1 生島治郎『死者だけが血を流す/淋しがりやのキング』
収録作品=『死者だけが血を流す』「チャイナタウン・ブルース」「淋しがりやのキング」「甘い汁」「血が足りない」「夜も昼も」「浪漫渡世」
巻末エッセイ=大沢在昌/解説=北上次郎
2 大藪春彦『野獣死すべし/無法街の死』
収録作品=「野獣死すべし」『無法街の死』「狙われた女」「国道一号線」「廃銃」「乳房に拳銃」「白い夏」「殺してやる」「暗い星の下で」
巻末エッセイ=馳星周/解説=杉江松恋
3 河野典生『他人の城/憎悪のかたち』
収録作品=『他人の城』「憎悪のかたち」「溺死クラブ」「殺しに行く」「ガラスの街」「腐ったオリーブ」
巻末エッセイ=太田忠司/解説=池上冬樹
4 仁木悦子『冷えきった街/緋の記憶』
収録作品=『冷えきった街』「色彩の夏」「しめっぽい季節」「美しの五月」「緋の記憶」「数列と人魚」
巻末エッセイ=若竹七海/解説=新保博久
5 結城昌治『幻の殺意/夜が暗いように(仮)』
6 都筑道夫『酔いどれ探偵/二日酔い広場』
収録作品=『酔いどれ探偵』全編/『二日酔い広場』全編
巻末エッセイ=香納諒一/解説=日下三蔵
7 傑作集