少し前に北京で冬季オリンピックがあった。雪と氷の上での熱戦に興奮しながら観戦した。スピードを競うものやアクロバット的な技を競うものが多いが、それらの種目とは一寸毛色の変わった種目があった。カーリングである。

 比較すると静かな競技である。カーリング・シートと呼ばれる長さ約44.5メートル幅約4.4メートルの長方形のリンクで、ハックと呼ばれる蹴り台から標的となる多重の同心円の模様が施されたハウスへ、一チーム四人のメンバーがそれぞれ二回ストーンを投じる。ハウスの中心に近い方に残ったストーンで得点が決まるのだが、序盤ではハウスの前にストーンを置いて相手のストーンを妨害したり、ハウスの中の相手のストーンを出しにいったり、ハウスの中にストーンが残っていても、ダブルテイクアウトで逆転されたりと、ろくにルールも分かっていないけれど、約二時間の競技に飽きることはなかった。

 情勢を見極めるためにチーム内でのコミュニケーションも重要で、身体能力よりも事前の予測や相手の行動を先読みする想像力、そして氷の状態やストーンの動きから即座に戦略を組み立て直す知能など、奥深いものを感じた。将に囲碁の対局に似たものを感じた。後で「氷上のチェス」とも呼ばれていることを知って、ナルホドと思った。

 さて囲碁の話だが、囲碁には、一にアキ隅、二にカカリ又はシマリ、三に辺への展開という、打ち方を教える格言がある。しかし格言だからとか定石だからとか言って、その通りに対局が進行していくことは少ないし、それで優勢になるとは限らない。そこが囲碁の難しさだ。

 相手のあることなので、想定していない一手を打たれると、それに正しく対応しなければ形勢を損じる。弱い石、強い石そして形勢判断、相手が何を狙っているのか等々、様々なことを考えなければならない。石と石との関係をどう観るのかという感覚や大局観といったものが重要になってくる。それらを磨くためには、ハメ手を粉砕する技術、定石の戦略的な使用、隅と辺の連動した配石、相手の応手打診への対応とか捨て石の利用とか、様々な手段や手法を学ぶことが必要になる。

 4月11日発売の本書『相手の狙いを見抜け』では、それらの課題に、基本となる場面を提示して問題を解くように構成した。更に「ワンポイント・レッスン」「レベルアップ・レッスン」の補充コーナーを設けて、充実した学習が出来るように工夫した。本書を通じて、大局観や感覚が大いに磨かれ、棋力の向上に寄与することを願っている。