昨年10月に急逝された、樋口有介さんのライフワークともいえる、〈柚木草平シリーズ〉最後の作品が創元推理文庫に登場です。
時代は変わっても、主人公・柚木草平はずっと38歳のまま。“永遠の38歳”でおなじみの、本シリーズですが、最後の活躍をぜひご堪能ください。著者急逝のため、これまでシリーズ全作についていた「創元推理文庫版あとがき」がありません。ですが、今回ミステリ評論家の杉江松恋さんによる、大変素晴らしい力作解説を収録しております。杉江さんといえば、『不良少女』でも解説をお願いし、当時までのシリーズに登場する女性キャラクターリストが、ファンの間でも好評でした。今回、『不良少女』刊行以降の作品のキャラクターを網羅した完全版もお願いし、解説(リストも含みます)でなんと24ページ! 「おいおい、なんて馬鹿なことを」ときっと樋口さんにもおっしゃっていただけるのではないかと思っております。
残念ながらシリーズ最後なので担当者として、創元推理文庫刊行順にちょっとずつ各作品を紹介させていただきます。
・『彼女はたぶん魔法を使う』……記念すべき柚木草平シリーズ第一作。ノンシリーズの『風少女』同様に、年一回は必ず読んでいます。ちなみに、この作品が単行本で刊行されたころ(1990年)、ラザニアはまだ得体の知れない料理だったのでしょうね。
・『初恋よ、さよならのキスをしよう』……実は、シリーズ全作で一番好きな作品です。この作品のアンサーとして、札幌編を書いていただくつもりでした。
・『探偵は今夜も憂鬱』……樋口さんは短編が苦手とおっしゃっていましたが、そんなことはありません。柚木のいろんな顔を見られてお得な作品です。「ナンバー10」の葉子はシリーズ後半も出してあげたかった。
・『刺青白書』……シリーズ唯一の三人称ですが、ヒロインの鈴女の青春小説としても非常に愛らしい作品です。鈴女同様に、樋口さんが下町を徒歩でロケハンした姿が浮かびます。
・『夢の終わりとそのつづき』……「柚木草平35歳の事件」というif設定として、楽しんでいただければ。ちょと無茶をしすぎましたが、修正の仕方はさすがプロでした。
・『誰もわたしを愛さない』……日サロ、ルーズソックス、チョベリバと、90年代後半の女子高生文化が懐かしく思い出されます。樋口さん、ショートカットのスレンダー女性がお好きだったのだなと、常々思う作品です。
・『不良少女』……さらにぐっとキレを増した第二短編集。柚木の日常が垣間見えます。若い頃は仕事終わりに、柚木のように行きつけのバーに行くんだろうなと思っていましたが……。
・『プラスチック・ラブ』……初読の時は、なんてこの木村という少年はモテモテなんだろうと誤解していました。細かなところですが、寒い日、暑い日の描写がとても素敵なのです。
・『捨て猫という名前の猫』……非常に重苦しい雰囲気のある長編ですが、柚木草平の新作が読めると、ファンの方々から喜ばれました。この作品の単行本刊行時にサイン会をしたことが思い出です。
・『片思いレシピ』……「加奈子を主人公に」と軽い気持ちでお願いしたら、こんなキュートな作品に仕上がりました。刊行後に作品舞台である、参宮橋や代々木八幡付近を散歩しましたが、雰囲気のある町ですよね。
・『少女の時間』……原点回帰という気持ちで、柚木の“軽さ”をテーマにした作品です。『枯葉色グッドバイ』の吹石夕子、『風景を見る犬』の枝沢柑奈がゲスト出演。ぼくの故郷・栃木県佐野市も特別に作品にだしていただきました。
・『うしろから歩いてくる微笑』……樋口さんが沖縄移住後の作品のため、東京以外をメインの場所にという打ち合わせをして、鎌倉が舞台となりました。最後になるとは思っていませんでした、本当に残念です。