◎INTERVIEW 期待の新人 新名智『虚魚』
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞、大賞受賞作『虚魚(そらざかな)』は、怪談師とその同居人が「人を殺せる怪談」を探していく物語です。
受賞した新名智さんにお話をお伺いしました。
――最初に、簡単な自己紹介をお願いいたします。
新名智(にいな・さとし)。長野県生まれ。早稲田大学大学院の修士課程を修了し、今は会社員をしています。
――この度は『虚魚』(以下、本作)の刊行、おめでとうございます。受賞の連絡を受けたとき、どちらにいらして、なにをしていましたか?
受賞の連絡を受けたときは、自宅でリモートワーク中でした。「十七時から十九時の間に電話します」と聞いていたのですが、十八時を過ぎてもかかってこないので、てっきり落選したから後回しになっているのだと思ったら、大賞と聞いて驚きました。
――小説の執筆歴、投稿歴を教えてください。
高校生の頃は、ネット上でアニメの二次創作小説を公開したりしていました。その後、大学でワセダミステリ・クラブというサークルに入ったことがきっかけで、部内誌などに短い小説を発表するようになりました。大学四年生のとき、初めて書いた長編小説がとある賞の最終選考に残り、将来は小説家になろう、と思いました。
――ミス研出身の方ですと、ミステリ作家になる方もいらっしゃいますが「小説家」だったんですね。
もともとジャンルは気にせず読むタイプだったので、自分が書く側になったときも、そのときどきで書きたいものを書いてきました。「今回はホラーを書きたいからミステリは少なくしよう」というようなことはなくて、自分の好きなものを全部入れた作品が結局は一番楽しいものになると思っています。
――横溝正史ミステリ&ホラー大賞に応募されたきっかけは?
二〇二〇年はコロナ禍の影響で自宅にいる時間が増えたため、以前から興味のあった長編ホラー小説に挑戦してみようと思いました。貴志祐介(きし・ゆうすけ)さんや澤村伊智(さわむら・いち)さん、法条遥(ほうじょう・はるか)さんの作品をよく読んでいたので、せっかくだから同じ日本ホラー小説大賞に送ろうと思ったのですが、そこで初めて横溝賞と合併したことを知り……とはいえ、系譜(けいふ)を引き継いだ賞ではあったので、この賞に送ることにしました。
――本作は怪談師の三咲(みさき)と同居人のカナちゃんが、「釣り上げると死ぬ魚」の発生源を探していくという物語です。ホラーとミステリが融合した展開が魅力ですが、着想のきっかけは何でしょうか?
小野不由美(おの・ふゆみ)さんの『残穢(ざんえ)』が好きなので、同じように、地に足の着いた視点で怪談の真偽を探っていくような話を書くことにしました。「土地の呪い」みたいなテーマでは『残穢』とかぶってしまうので、同じように調査して辿(たど)れるような何かはないか、と考えたときに、「怪談だらけの川」というテーマが浮かびました。
――「人を殺せる怪談」を探す三咲と、「呪いか祟(たた)りで死にたい」カナちゃん。その設定と、踏み込みすぎない距離感が心地よく、かつ作品にも合っていると感じました。二人のキャラクターはどういったところから生まれましたか?
百合(ゆり)と呼ばれるジャンルの作品が好きなので、女性ふたりのバディものにしようと決めました。お互い、表と裏になるような設定、かつ、先に述べたような「怪談の真偽」というテーマとかかわるような設定ということで、「呪いか祟りで死にたい人を見つけて、実験台にする」という設定を思いつきました。
――以前から怪談にはご興味がありましたか? お好きな怪談などありましたら、教えてください。
子供の頃から好きで、『学校の怪談』(常光徹(つねみつ・とおる)・著、講談社KK文庫)シリーズや『怪談レストラン』シリーズ(松谷みよ子・他)などをよく読んでいました。高校生のときに『新耳袋』を読んで、実話怪談というジャンルがあることを知りました。
個人的には、どこか展開が不条理だったり、人間の理解を超えたところがあるような怪談が好みです。最近聞いたものだと、牛抱せん夏(うしだき・せんか)さんの「モーテル」という怪談は不思議な後味があって気に入っています。
――怪談の語りと小説の語りが違和感なく繋がっていることも印象的でした。怪談を題材にする際に、何か気をつけたり、意識したりしたことはございますか?
主人公が怪談に巻き込まれるホラーではなく、少し引いた立場で怪談を集めていくような話にしたいと思っていたので、体験者やシチュエーション、怪異の出現方法など、いろいろなパターンを登場させています。作中では詳細が語られない怪談もあり、それらはタイトルの単語の並びだけで不穏なものを感じてもらえるよう工夫しました。うっすらと元ネタのある怪談もあるので、見つけて楽しんでほしいです。
――主人公をそうした立場にされたのは、どういった意図がありましたか?
ぼく自身が、幽霊や超常現象の存在をまったく信じていないためです。だから、ホラー作品などでも、主人公たちがそういったものの存在をあっさり受け入れるような展開があると、個人的には白けてしまうことがよくありました。そういう人は自分以外にもいるはずだと思ったので、この作品の主人公たちについては、オカルトによりかからず、証拠のないものは信じない、というスタンスで描くよう心がけました。
――怪談を題材にしつつ、終盤の展開はロジックで組み立てられているように感じました。ラストの展開は最初から決めていましたか?
クライマックスの展開は考えていましたが、具体的な内容、とくに「川の上流に何があるのか」ということは書きながら決まっていきました。いったい何が見つかれば納得するのかということを、作中の主人公と一緒に考えていったような感じです。
プロットはほとんど作っておらず、最初のほうの場面を書いている段階では、もっとコミカルでゆるい話になると思っていました。前半四分の一くらいで、主人公である三咲の過去のトラウマを書いたとき、「どうやらこれは真面目な話だぞ」と思い直し、そこから今の雰囲気になっていきました。
――ワセダミステリ・クラブに所属されていて、ミステリを多く読まれてきたと思います。そういったご経験は作品に影響していますか?
「小説の最初と最後で見えるものが変わる」「すべての手がかりを余さず使う」「真相が何かということよりも、それを知る手順を楽しませる」という本格ミステリ的な美意識は、どんなジャンルの話を書くときにも心がけています。
――好きな作家と作品をそれぞれ教えてください。
貴志祐介『天使の囀(さえず)り』
澤村伊智『ずうのめ人形』
三津田信三(みつだ・しんぞう)『作者不詳 ミステリ作家の読む本』
蘇部健一(そぶ・けんいち)『六枚のとんかつ』
伊藤計劃(いとう・けいかく)『ハーモニー』
エラリイ・クイーン『緋文字(ひもんじ)』
マイクル・Z・リューイン『A型の女』
ジャック・カーリイ『デス・コレクターズ』
チャイナ・ミエヴィル『クラーケン』
ミステリでもSFでもホラーでも、共通するのは「わからないことがだんだんわかってゆく楽しさ」だと思っています。異形のものを追いかける好奇心に、たどりついた真実の不穏さ、見慣れた風景の裏に見知らぬ世界がまだまだ広がっているという想像力。あとは個人的な好みとして、シンプルな構図が二転三転していく物語が好きなので、クイーン作品からは『緋文字』を選びました。六とんはこれらと関係なく好きだから入れました。
――ご自身で目指す理想のミステリの形はありますか?
ミステリで一番楽しいのは謎解きの場面だと思うので、冒頭で出されたひとつの謎をずーっと解き続ける、「全部が解決編」みたいなミステリが理想の形です。たとえば西澤保彦(にしざわ・やすひこ)『麦酒の家の冒険』や深水黎一郎(ふかみ・れいいちろう)『ミステリー・アリーナ』など。
――では、理想のホラーの形はいかがでしょうか?
理屈では絶対に解決できない堂々巡りのような存在や、そもそも論理が通用しない不条理な怪異に惹かれます。小林泰三(こばやし・やすみ)「酔歩する男」や法条遥『リライト』のように宇宙の構造そのものが襲ってくる話、あるいは岡嶋二人(おかじま・ふたり)『クラインの壺』や貴志祐介『天使の囀り』のように自分自身の内面が恐怖の源となる話など。
――本誌の読者に向けて一言お願いいたします。
前身の『ミステリーズ!』は学生時代から憧れの雑誌でしたので、こうして誌面に出ることができて嬉しいです。『虚魚』をよろしくね。
――今後書きたい題材や抱負があればお聞かせください。
オカルト全般が好きなので、今後も折に触れて書いていくような予感がしています。怪談ものだけでなく、未確認生物や超古代文明の話も書きたいです。あとは、探偵役とワトソン役が出てくるようなオールドスクールの本格もそのうち書けたらいいなあと思っています。
受賞した新名智さんにお話をお伺いしました。
――最初に、簡単な自己紹介をお願いいたします。
新名智(にいな・さとし)。長野県生まれ。早稲田大学大学院の修士課程を修了し、今は会社員をしています。
――この度は『虚魚』(以下、本作)の刊行、おめでとうございます。受賞の連絡を受けたとき、どちらにいらして、なにをしていましたか?
受賞の連絡を受けたときは、自宅でリモートワーク中でした。「十七時から十九時の間に電話します」と聞いていたのですが、十八時を過ぎてもかかってこないので、てっきり落選したから後回しになっているのだと思ったら、大賞と聞いて驚きました。
――小説の執筆歴、投稿歴を教えてください。
高校生の頃は、ネット上でアニメの二次創作小説を公開したりしていました。その後、大学でワセダミステリ・クラブというサークルに入ったことがきっかけで、部内誌などに短い小説を発表するようになりました。大学四年生のとき、初めて書いた長編小説がとある賞の最終選考に残り、将来は小説家になろう、と思いました。
――ミス研出身の方ですと、ミステリ作家になる方もいらっしゃいますが「小説家」だったんですね。
もともとジャンルは気にせず読むタイプだったので、自分が書く側になったときも、そのときどきで書きたいものを書いてきました。「今回はホラーを書きたいからミステリは少なくしよう」というようなことはなくて、自分の好きなものを全部入れた作品が結局は一番楽しいものになると思っています。
――横溝正史ミステリ&ホラー大賞に応募されたきっかけは?
二〇二〇年はコロナ禍の影響で自宅にいる時間が増えたため、以前から興味のあった長編ホラー小説に挑戦してみようと思いました。貴志祐介(きし・ゆうすけ)さんや澤村伊智(さわむら・いち)さん、法条遥(ほうじょう・はるか)さんの作品をよく読んでいたので、せっかくだから同じ日本ホラー小説大賞に送ろうと思ったのですが、そこで初めて横溝賞と合併したことを知り……とはいえ、系譜(けいふ)を引き継いだ賞ではあったので、この賞に送ることにしました。
――本作は怪談師の三咲(みさき)と同居人のカナちゃんが、「釣り上げると死ぬ魚」の発生源を探していくという物語です。ホラーとミステリが融合した展開が魅力ですが、着想のきっかけは何でしょうか?
小野不由美(おの・ふゆみ)さんの『残穢(ざんえ)』が好きなので、同じように、地に足の着いた視点で怪談の真偽を探っていくような話を書くことにしました。「土地の呪い」みたいなテーマでは『残穢』とかぶってしまうので、同じように調査して辿(たど)れるような何かはないか、と考えたときに、「怪談だらけの川」というテーマが浮かびました。
――「人を殺せる怪談」を探す三咲と、「呪いか祟(たた)りで死にたい」カナちゃん。その設定と、踏み込みすぎない距離感が心地よく、かつ作品にも合っていると感じました。二人のキャラクターはどういったところから生まれましたか?
百合(ゆり)と呼ばれるジャンルの作品が好きなので、女性ふたりのバディものにしようと決めました。お互い、表と裏になるような設定、かつ、先に述べたような「怪談の真偽」というテーマとかかわるような設定ということで、「呪いか祟りで死にたい人を見つけて、実験台にする」という設定を思いつきました。
――以前から怪談にはご興味がありましたか? お好きな怪談などありましたら、教えてください。
子供の頃から好きで、『学校の怪談』(常光徹(つねみつ・とおる)・著、講談社KK文庫)シリーズや『怪談レストラン』シリーズ(松谷みよ子・他)などをよく読んでいました。高校生のときに『新耳袋』を読んで、実話怪談というジャンルがあることを知りました。
個人的には、どこか展開が不条理だったり、人間の理解を超えたところがあるような怪談が好みです。最近聞いたものだと、牛抱せん夏(うしだき・せんか)さんの「モーテル」という怪談は不思議な後味があって気に入っています。
――怪談の語りと小説の語りが違和感なく繋がっていることも印象的でした。怪談を題材にする際に、何か気をつけたり、意識したりしたことはございますか?
主人公が怪談に巻き込まれるホラーではなく、少し引いた立場で怪談を集めていくような話にしたいと思っていたので、体験者やシチュエーション、怪異の出現方法など、いろいろなパターンを登場させています。作中では詳細が語られない怪談もあり、それらはタイトルの単語の並びだけで不穏なものを感じてもらえるよう工夫しました。うっすらと元ネタのある怪談もあるので、見つけて楽しんでほしいです。
――主人公をそうした立場にされたのは、どういった意図がありましたか?
ぼく自身が、幽霊や超常現象の存在をまったく信じていないためです。だから、ホラー作品などでも、主人公たちがそういったものの存在をあっさり受け入れるような展開があると、個人的には白けてしまうことがよくありました。そういう人は自分以外にもいるはずだと思ったので、この作品の主人公たちについては、オカルトによりかからず、証拠のないものは信じない、というスタンスで描くよう心がけました。
――怪談を題材にしつつ、終盤の展開はロジックで組み立てられているように感じました。ラストの展開は最初から決めていましたか?
クライマックスの展開は考えていましたが、具体的な内容、とくに「川の上流に何があるのか」ということは書きながら決まっていきました。いったい何が見つかれば納得するのかということを、作中の主人公と一緒に考えていったような感じです。
プロットはほとんど作っておらず、最初のほうの場面を書いている段階では、もっとコミカルでゆるい話になると思っていました。前半四分の一くらいで、主人公である三咲の過去のトラウマを書いたとき、「どうやらこれは真面目な話だぞ」と思い直し、そこから今の雰囲気になっていきました。
――ワセダミステリ・クラブに所属されていて、ミステリを多く読まれてきたと思います。そういったご経験は作品に影響していますか?
「小説の最初と最後で見えるものが変わる」「すべての手がかりを余さず使う」「真相が何かということよりも、それを知る手順を楽しませる」という本格ミステリ的な美意識は、どんなジャンルの話を書くときにも心がけています。
――好きな作家と作品をそれぞれ教えてください。
貴志祐介『天使の囀(さえず)り』
澤村伊智『ずうのめ人形』
三津田信三(みつだ・しんぞう)『作者不詳 ミステリ作家の読む本』
蘇部健一(そぶ・けんいち)『六枚のとんかつ』
伊藤計劃(いとう・けいかく)『ハーモニー』
エラリイ・クイーン『緋文字(ひもんじ)』
マイクル・Z・リューイン『A型の女』
ジャック・カーリイ『デス・コレクターズ』
チャイナ・ミエヴィル『クラーケン』
ミステリでもSFでもホラーでも、共通するのは「わからないことがだんだんわかってゆく楽しさ」だと思っています。異形のものを追いかける好奇心に、たどりついた真実の不穏さ、見慣れた風景の裏に見知らぬ世界がまだまだ広がっているという想像力。あとは個人的な好みとして、シンプルな構図が二転三転していく物語が好きなので、クイーン作品からは『緋文字』を選びました。六とんはこれらと関係なく好きだから入れました。
――ご自身で目指す理想のミステリの形はありますか?
ミステリで一番楽しいのは謎解きの場面だと思うので、冒頭で出されたひとつの謎をずーっと解き続ける、「全部が解決編」みたいなミステリが理想の形です。たとえば西澤保彦(にしざわ・やすひこ)『麦酒の家の冒険』や深水黎一郎(ふかみ・れいいちろう)『ミステリー・アリーナ』など。
――では、理想のホラーの形はいかがでしょうか?
理屈では絶対に解決できない堂々巡りのような存在や、そもそも論理が通用しない不条理な怪異に惹かれます。小林泰三(こばやし・やすみ)「酔歩する男」や法条遥『リライト』のように宇宙の構造そのものが襲ってくる話、あるいは岡嶋二人(おかじま・ふたり)『クラインの壺』や貴志祐介『天使の囀り』のように自分自身の内面が恐怖の源となる話など。
――本誌の読者に向けて一言お願いいたします。
前身の『ミステリーズ!』は学生時代から憧れの雑誌でしたので、こうして誌面に出ることができて嬉しいです。『虚魚』をよろしくね。
――今後書きたい題材や抱負があればお聞かせください。
オカルト全般が好きなので、今後も折に触れて書いていくような予感がしています。怪談ものだけでなく、未確認生物や超古代文明の話も書きたいです。あとは、探偵役とワトソン役が出てくるようなオールドスクールの本格もそのうち書けたらいいなあと思っています。
新名智(にいな・さとし)
作家。1992年生まれ。長野県出身。2021年、『虚魚』で第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞大賞を受賞してデビュー。【本インタビューは2021年12月発売の『紙魚の手帖』vol.02の記事を転載したものです】






