日本人にとって他人事(ひとごと)では済まされない今日(こんにち)的な問題に、堅牢(けんろう)な謎と緻密な推理の火花散る勝負を通じて迫る、なんとも知的で熱い長編本格推理が誕生した。

 結城真一郎『救国ゲーム』(新潮社 2200円+税)の舞台は、消滅寸前の危機から奇跡の復活を遂げた過疎集落。その立役者で国民的な人気を誇るカリスマ――神楽零士(かぐられいじ)が変死体となって発見される。頭部は集落民の生活用品を運ぶためのドローンに乗せられ、胴体は自動運転車両とともに山中で炎上していた。

 すると、日本の未来のために地方救済を標榜(ひょうぼう)する神楽に対し、動画投稿サイトで過激な地方切り捨て案を主張してきた謎の論客《パトリシア》から犯行声明が。さらに政府と国民に向けた前代未聞の要求に加え、期限までに従わなければドローンによる無差別テロを決行することが告げられる。

《パトリシア》と名乗るテロリストは、崖っぷちの日本に革命をもたらす救世主なのか? 集落の住人である陽菜子は最悪の結末を回避すべく、学生時代の知り合い――頭脳明晰(めいせき)で〝死神〟の異名を取るエリート官僚の雨宮に連絡を取る……。

 デビュー作である第5回新潮ミステリー大賞受賞作『名もなき星の哀歌』、夢の世界を扱った特殊設定ミステリ『プロジェクト・インソムニア』、どちらも絡み合う謎の密度と巧緻な謎解きが目を惹いたが、本作でもそれらの美点がこれまで以上に光を放っている。なかでも切断された頭部をいかにしてドローンボックスに格納したかを巡って入念に重ねられる推理は圧巻のひと言に尽きる。2020年代ならではのドローンや自動運転車両を駆使した本作の趣向は、古今東西、手を替え品を替え書き継がれてきた、アリバイ崩しの系譜に新たな一ページを刻んだといっても過言ではない。

 よくぞここまでと感嘆してしまうほど考えに考え抜かれた歯ごたえ抜群の論理遊戯は、〝救国〟という難易度最大級の国民的問題の手強さと重なり、そうまでしなければならなかった真相の切実さがいっそう胸に深く突き刺さる(先の衆院選の投票率と結果を知るいまなら、なおさら)。「#拡散希望」での第74回日本推理作家協会賞短編部門受賞も記憶に新しい新鋭による、さらなる飛躍を見逃してはならない。

 青柳碧人(あおやぎあいと)『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』(双葉社 1350円+税)は、本屋大賞にもノミネートされたベストセラー『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の続編。今回も、よくご存知の昔ばなしが様々なアレンジで本格ミステリに変奏されている。

 かぐや姫に求婚した公達(きんだち)が容疑者となった密室殺人事件。その真相究明が思わぬ展開を見せる、ハードボイルド風の語りが特徴的な「竹取探偵物語」

 あの「おむすびころりん」に登場する強欲なじいさんを主人公に、穴に落ちてはひどい目に遭うことを繰り返しながら殺鼠(さっそ)事件の真相に迫る、タイムループ・ミステリ「七回目のおむすびころりん」

 物々交換の末に現在の地位と富を獲得した長者の屋敷で月に一度開かれる、不思議な話を披露する会。別々の人物に三回殺された男の話の先に、この話ならではの周到な企みが明かされる「わらしべ多重殺人」

「猿蟹合戦」で殺された猿の息子だという栃丸から、ある計画を持ち掛けられた狸の茶太郎。猿がしっぺ返しを食らうあの話の真の内容を聞かされた茶太郎が繰り広げる推理を経て、ラスト一行でニヤリとすること請け合いの「真相・猿蟹合戦」

 そして最終話「猿六とぶんぶく交換犯罪」では、推理力に秀でたサルの猿六が登場し、「猿蟹合戦」に関連する不可能犯罪を解き明かす――だけでは終わらない、手の込んだ内容になっている。

 元となる昔ばなしをどこまで遊び倒すか、そこにミステリ要素をどれだけ盛り込んで練り上げるか。どちらも前作以上に力が注がれており、軽妙な面白さを一気に堪能したのち改めて振り返ると、その創意工夫のひとつひとつから著者のミステリ作家としての気迫がひしひしと伝わってくるようだ。ミステリというジャンルの懐(ふところ)の深さを、よりいっそう知らしめてくれるに違いない充実の作品集だ。

■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。