『忘れられた花園』、『秘密』のケイト・モートンによる『湖畔荘』がついに文庫化されました!
邦訳版単行本(上下巻)が刊行されたのが2017年、もう4年も前のことです。
やはり、文庫で揃えたいという方も多いかと思いますので、是非今回、文庫版でお読みください。
この『湖畔荘』の単行本版を世に送り出した当時は、この大団円、ちょっとやり過ぎ? 大甘じゃなかろうか? などと思ったりもしたのですが、今回読み返して、いや、そんなことはない! この展開、伏線の回収、この結末に持っていくのにどれだけ精緻な組み立てがなされているかが改めて確認できて、これぞケイト・モートンと首肯したのでした。
でも、三作とも、それぞれに美しいあのカバー、どうみても女性向きと思う方も多いかと思います。
美しくやわらか、でも、雰囲気があって。そう、それはもう素敵なたたずまいじゃないですか。でも、しっかりした本格ミステリを読みたいと思うあなた、ご安心ください。こんなふうに見えて、その実態は、実に見事に論理的に組み立てられた作品なのです。
まあ、だまされたと思ってお読みになってください。絶対ご満足いただけます。弱み終えた途端に、伏線の数々を確認するために読み返したくなること間違いなしなのですから。
あの時のあれか!
そうかそういうことだったのか……!
あ、ここでしっかり語られていたじゃないか!
ミステリであれば当たり前といえば当たり前のことなのですが、伏線とその回収が、ケイト・モートンならではの豊穣な物語の流れに組み込まれていると、大いなるうねりの中にまぎれてしまい、読んでいてミステリということをつい忘れてしまうのです。それほど、物語を読む楽しみが溢れているのです。
なにより、モートン作品は翻訳ミステリー大賞を二度受賞(『秘密』は翻訳ミステリー大賞読者賞も同時受賞。『忘れられた花園』刊行時にはまだ読者賞はありませんでした!)しているのですから、そう、皆さん、ケイト・モートン作品が見事なミステリであるということは、決して担当編集者の思い込みではないのです。
文庫版解説は大矢博子さんにお願いしました。
大矢さんも解説中こう述べていらっしゃいます。
「最後まで読んだら、どうかもう一度、最初から読み直してほしい。言葉ひとつ、文章ひとつが、どれだけ緻密な計算の上に成り立っていることか。初読のときは疑いなくこういう意味だと思っていた言葉に、真相を知ってから読むとまったく違った意味が込められていたことを知って驚くだろう」そしてこうも。
「『真犯人』を唐突だと思う人もいるかもしれない、真犯人に到達しうるヒントが出されるのが遅すぎると感じる人もいるかもしれない。だが再読すれば、そうではないことがわかる。伏線ははっきりと存在している。ただその伏線が普通とは違うのだ。……本書の最大の特徴――それは、本書のもうひとつの謎が伏線になっている、ということにある」
で、どんな話なんだ? ですよね。
ロンドン警視庁の女性刑事(謹慎中――この謹慎の原因は、彼女自身が抱える問題とも、この本全体のテーマとも、大いに関わってきます)がコーンウォールの祖父の家に身を寄せている間に、二匹の大型犬(ゴールデレトリーバー、いい犬たちです)とランニングに出かけた森の中で打ち捨てられた無人の館を見つけるのですが、そこでは70年前のミッドサマー・パーティーの夜、男の赤ん坊が育児室から行方不明になるという事件がありました。 子供は結局発見されず、事件は迷宮入りに。
三人の娘たちを連れて両親は館を捨て、一家は二度とそこに戻ることはありませんでした。
現在の館の持ち主は、消えた赤ん坊の姉の一人で、今や高名なミステリー作家となっている高齢のアリス・エダヴェイン(ロンドン住まいです)。
今回も1910年代、1930年代、2000年代を物語は行き来します。
2003年は、謹慎中のロンドン警視庁の女性刑事の物語。
1930年代は、赤ん坊の姉アリスが湖畔荘で活き活きと暮らしています。そして事件。
1910年代は、湖畔荘を捨てることになる夫婦が出会ったころのこと。
謹慎中の女性刑事がこの謎を解明することになるのです。大雑把に言ってしまえばこんなところです。
さあ、ミステリ・ファンの皆さん、これで『湖畔荘』を読まずにすますわけにはいかなくなったでしょう!
お正月休みの読書計画に、本書を加えていただきたくお願い致します。
【海外の書評から】
◆素晴らしい筆致、息詰まる展開、驚愕の結末……ケイト・モートンは最高だ。
――フィラデルフィア・インクワイアラー
◆これぞページターナー。――ピープル・マガジン
◆引き込まれる……モートンのストーリー作りには非のうちどころがなく、人物造形の見事さと驚愕の結末に読者は心底驚かされ魅了される。
――パブリッシャーズ・ウィークリー
◆読者をひねりの渦に巻き込む蠱惑的なミステリ。謎のなかにまた謎が隠され、それが解けたと思うとさらに新たな謎が現われる。
――サンディエゴ・ブック・レビュー
◆最後の最後まで緊迫感は続き、もしもあなたが複雑精緻なプロットや家族の秘密といったテーマに惹かれる読者であれば、私のこの喜びに共感してくれるはずだ。
――レクスプレス