2021年12月、小森収編『短編ミステリの二百年』全6巻が完結いたします。2019年10月に第1巻が刊行されてから足かけ2年と少し、順調に巻数と版数を重ねてこられたのも読者の皆さまのおかげです。〈名作ミステリ新訳プロジェクト〉2021年12月の新刊、『短編ミステリの二百年6』をどうぞよろしく。
先日〈Webミステリーズ!〉での連載が最終回を迎えた「短編ミステリの二百年」で取り上げられた厖大な作品の中から、純粋に面白いものから歴史を論じるにおいて欠かせないものまで、さまざまな短編を集めているこのアンソロジー、本巻の収録作品は以下の12短編となります。
「しがみつく女」ルース・レンデル 白須清美訳
「交通違反」ウィリアム・バンキア 直良和美訳
「拳銃所持につき危険」ジェフリイ・ノーマン 門野集訳
「またあの夜明けがくる」パトリシア・ハイスミス 直良和美訳
「パパの番だ」ジェイムズ・マクルーア 白須清美訳
「バードウォッチング」デイヴィッド・ウィリアムズ 藤村裕美訳
「最期の叫び」マイクル・コリンズ 門野集訳
「アッカーマン狩り」ローレンス・ブロック 門野集訳
「家族の輪」スタンリイ・エリン 猪俣美江子訳
「ジェミニー・クリケット事件〈アメリカ版〉」クリスチアナ・ブランド 深町眞理子訳
「ジェミニー・クリケット事件〈イギリス版〉」クリスチアナ・ブランド 深町眞理子訳
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「短編ミステリの二百年」小森収
第十五章 MWA賞の凋落とクライムストーリイの行方
1 七〇年代のMWA短編賞
2 七〇年代クライムストーリイのエース1――ジョイス・ハリントン
3 七〇年代クライムストーリイのエース2――ルース・レンデル
4 クライムストーリイの後継者たち
5 七〇年代クライムストーリイのもう一方の旗手――ローレンス・ブロック
6 凋落の始まり
第十六章 ウィンターズ・クライムとアンソロジーの時代
1 ふたつのアンソロジーの間に
2 ウィンターズ・クライム輸入前史
3 ブリティッシュ・クライムストーリイの活況
4 パズルストーリイ作家たちのウィンターズ・クライム
5 「バードウォッチング」の指し示すこと
第十七章 シリーズキャラクターの功罪
1 七〇年代初頭の短編パズルストーリイ状況
2 ネオハードボイルド邦訳の背景
3 ダン・フォーチュン――ハードボイルド最後のサムライ
4 ローレンス・ブロックのシリーズキャラクター
5 ネオハードボイルドを超える可能性――V・I・ウォーショースキー
6 シリーズキャラクターの時代のMWA賞――ローレンス・ブロックと殺し屋ケラー
7 二十一世紀に入ったエドガー
幕間 個人短編集翻訳の盛衰
第十八章 残りの二十年に向けて
1 晩年のパトリシア・ハイスミス
2 屹立する作家の肖像ACT3
3 クリスチアナ・ブランドの軌跡
終章 誰が謎を解いたのか
1 「ジェミニー・クリケット事件」のふたつのヴァージョン
2 ふたつの「ジェミニー・クリケット事件」1――その結末
3 ふたつの「ジェミニー・クリケット事件」2――その冒頭
4 ふたつの「ジェミニー・クリケット事件」3――ヘレンに触れられること
5 そして誰も解かなかった
6 Get over
7 結び
今回の目玉はなんといっても、ブランド「ジェミニー・クリケット事件」の〈アメリカ版〉〈イギリス版〉の2編同時収録。編者の小森氏が「20世紀最高のミステリ短編」と評するこの作品は、全編にわたって細かい異同のある2つのバージョンが存在することで知られ、しかもその両方が日本語で読めるという稀有な状況にありました。
ただし、米英両版に多くの違いがあることは知られていても、具体的にどこがどう異なるのか、異なった結果、作品の何が変わったのかはほぼ論じてこられませんでした。そこで本書では史上初めて、米版・英版2編を同時に収め(収録に際し、2編とも訳者の深町眞理子先生に見なおしていただきました)、さらに評論の終章として、2つのバージョンを精緻に比較した論考「誰が謎を解いたのか」を収録。魅力の核心に迫ります。
※「ジェミニー・クリケット事件」の結末を明かしているので、必ず米英両版を先に読んだうえで取りかかってください
ブランド以外の10編も鮮烈です。本アンソロジー2回目の登場となるエリン「家族の輪」や、ハイスミスの苦みたっぷりの傑作「またあの夜明けがくる」、ノーマンのMWA短編賞受賞作「拳銃所持につき危険」などで、短編の魅力をたっぷり味わってください。
さらにお知らせ。『短編ミステリの二百年』全6巻の完結を記念して、来年2月刊行の『紙魚の手帖』vol.03では特集が組まれます。小森収氏の対談や「ここだけの編集後記」、惜しくも採られなかった短編の新訳など盛りだくさん。さらに、同じ月には江戸川乱歩編のアンソロジーを補完する、戸川安宣編『世界推理短編傑作集6』(じつは1編だけ、『短編ミステリの二百年』と同じ作品が収録されています。さてなんでしょう?)も発売予定。どうぞお楽しみに!