コーダの手話通訳士・荒井尚人の活躍を描いた〈デフ・ヴォイス〉シリーズ最新作をお届けします。手話といえば、つい先日終了した東京オリンピック開会式の際に「手話通訳がない」とSNSなどで大きく話題となりました。今回のオリンピック、多様性を謳っていたはずなのに……。ちなみに、閉会式はEテレで手話通訳付きの放送となっており、同じくSNSで安堵の声が多く聞こえてきました。
さて、今作は2020年のコロナ禍を舞台としております。2020年2月からの一斉休校の問題や、契約社員の雇い止めの問題などは、ろう者だけでなく多くの方が影響を受けました。コロナ禍でさらにあぶり出された、“家庭でのろう者の孤独”が今作の大きなテーマとなっております。苦難な状況下で、手話通訳士の荒井は何を見いだしていくのか、じっくりと楽しんでいただければと思います。また、今作のストーリーの裏側では『刑事何森 孤高の相貌』の「ロスト」の出来事が進行しております。ファンの皆様はぜひ読み比べてみてください。
ここからは、いち早く本書をお読みいただいた書店員の皆さんにコメントをいただきました(※7月上旬在籍店舗でご紹介しております)ので、こちらにて紹介させていただきます。ぜひ購入の参考になさってくださいませ。
どこの家庭でも、お互いが全ての事をわかっている訳ではないと思うが、それはこの物語の比ではないと思う。護ってくれるはずの親にさえ障がい者としてしか見てもらえない辛さ。誰が悪い訳ではないけれど、この偏見を少なくする手立てはないのだろうか。うさぎや 作新学院前店 丸山由美子さん
著者から読者へ伝えること、知ることで寄り添える社会に近づけたなら。SNS上での心理がリアルに描かれ、批判から生まれるものは何か? 考えさせられた。気持ちを伝えること、理解しようとすること。家庭、学校、社会にとって大切なことを教えられ、全編を通して心から動かされた。ノンフィクションのような小説から、愛が生まれた!うさぎや 矢板店 山田恵理子さん
社会はいつも福祉に手を差しのべるふりをしながら少数を美談で片付け、多数を正解としがちだが、正解は必ずしも最適解とは限らない。荒井家や周囲の人間関係にミステリ要素を絡ませながらも聾の世界の生きにくさと、それでも生きていくことの大切さを描いている。くまざわ書店 錦糸町店 阿久津武信さん
コロナ禍の事態悪化が聴こえない人々をより苦しめている現実を見た。そして家族との深い溝。想像してみてほしい。安らげるはずの家族と囲む食卓の場でひとり会話に入れない孤独。わたし達に何ができるのか。今作はフィクションであると同時に良質なノンフィクションだ。コロナ禍収束を心から願います。くまざわ書店 名古屋セントラルパーク店 大洞良子さん
手話通訳士という職業があるのを初めて知りました。「私一人、家族であって家族じゃなかったみたい」が、印象的なセリフで、手話の奥深さ、ろう者の苦労をしみじみ感じました。瞳美の発言に対するみゆきの心情が痛々しかった。手話とろう者のことを考えながら読んでほしい感動作です。くまざわ書店 南千住店 鈴木康之さん
子どもができてはじめて、親というものが常に選択を迫られる存在だと自覚した。自分の選択が一人の人生の未来に関わる、その重み。手話での教育を選んだみゆき、口話を教えようとしたみゆきの母、どちらの思いも張り裂けそうなほどわかる。「デフ・ヴォイス」はもはや、わたしのもうひとつの人生である。三省堂書店 成城店 大塚真祐子さん
既成のヒューマニズムを沈黙させる、ろう者をめぐる厳しい現実。けれど、切なさ極まりない状況の只中でも、人と人は生きるためになんとかこころを寄せ合おうとするのですね。重いテーマの作品をぐいぐいと読ませる丸山先生のパワー、さすがです!敷島書房 一條宣好さん
同じ空気を吸っているのに、お互いの心が全然分からない、ろう者の孤独を初めて知った。思いやりが通り過ぎ、悲しい誤解に胸がしめつけられる。それでも真の優しさがあれば、何をも乗り越えていけると私は信じたい。そして読み終わり、人は決してひとりではないと、この作品が教えてくれた。ジュンク堂書店 滋賀草津店 山中真理さん
「お母さんの言うことをきけなくて、ごめんなさい。聴こえない子供で、ごめんなさい。」郁美の心からの叫びに、母として、一人の人として、涙が止まりませんでした。精文館書店 豊明店 能宗恵美子さん
このシリーズを読むたびに、何度も考えてしまう難しい現状。誰でもがこの場所にいても良い、本当の「当たり前」を探し求める主人公達の行動が心に迫る。著者の覚悟を改めて感じさせる大切な本となった。大盛堂書店 駅前店 山本亮さん
リアル。とてもリアルで、胸を締めつけられる場面が多くありました。この世の中で、私に何ができるだろう。何かできるはずだと、そんな思考も幾度となくよぎります。まずは、この本を多くの人に届けたい。知ってほしい。椿書房 渡部哩菜さん
このシリーズは私の考えもつかない問題を気づかせてくれる。家族でも言葉の壁でお互いの想いが伝わらないのが悲しい。今回もまた想像もしない聾者の問題を理解できるように荒井を通して丸山先生が教えてくれた。聴者と聾者の橋渡しとして先生の言葉でこれからも伝えて欲しい。荒井家のその後も知りたい。BOOKSえみたす ピアゴ植田店 清野里美さん
デフ・ヴォイスシリーズの第四弾。今作はコロナの中でのろう者の物語。聴こえない事で家族の中で独りになってしまうという話はとても悲しく感じました。聴こえない子供でごめんなさい、という一文が辛くて、でもそう言わせてしまうのは何も知らない私達なのかも、と。今読んで欲しい大切な絆の物語。ブックランドフレンズ 西村友紀さん
人として生きていくのに一番必要なもの。「自尊心」。心にズシンときた。己という者が常に守られている人からは出ない言葉だから。ろう者と聴者。この作品が両者の大きな架け橋になると信じています。願っています。
「ディナーテーブル症候群」は衝撃的でした。まさにこのタイトルですね。文真堂書店 ビバモール本庄店 山本智子さん
物語がコロナ禍の2020年へと進み、ろう者たちへの影響がこの小説によってあぶり出された。タイトルの意味が切なくて悲しくて、聴こえる人と聴こえない人の溝が少しでもなくなりますようにと願いながら読み終わった。知らないことがまだまだあるのでこのシリーズはさらに続けてほしいと思います。水嶋書房 くずはモール店 井上 恵さん
日常にあふれる些細な言葉たち。聴こえないということがどういうことなのか改めて考えました。「家族であって、家族じゃなかったみたい。」その言葉なぜか私の心にも深く突き刺さりました。瞳美も、いつかきっと感じる孤独。何気ない会話を沢山してほしい。未来屋書店 福津店 出田由美子さん
手話の事を、私達はどれだけ知っているだろうか。聴覚に障がいを持っている人に対してカタコトでも「手話をしてあげている」という驕りはないだろうか。理解できないからと会話を諦めないで心の声を聞いて欲しい。その想いが伝わってくる。丸山正樹にしか書けない小説、これからも願う。明林堂書店 フジ西宇部店 田中由紀さん
届いていなかった大切な「言葉」がとてもせつなくて哀しい。コロナ禍で、ろう者の日常にも大きな変化がもたらされていることが生々しく描かれている。このシリーズはいつも自分に「無知」をつきつけてくるが、心苦しくはない。ただ純粋に知ってほしいという著者の願いが前面にでているからであろう。明林堂書店 南宮崎店 河野邦広さん
聞こえない声を聴かせてくれるこの物語は、読むというより噛みしめ感じるべき作品だ。
たとえ親子であっても理解しあうのは難しい。だからこそ確かな絆と思いやりが尊く美しいのだ。深い孤独の先に見えるのはむき出しのやさしさ。心を震わす本物の感動がここにある!ブックジャーナリスト 内田剛さん