●最新作『星巡りの瞳』(2021年10月刊)

 遙か一千年あまりの昔、雷光をまとった一人の天人(あまびと)が荒地に降臨した。
 舞によって天人を招来したのは、尊い志を持った五人の娘である。各地を統べる五人の王が話し合い、それぞれが遣わした姫たちだ。彼女らは世にも稀なる黄梅の枝を天人に捧げると、悪鬼のはびこる大地の平定を願い、とこしえの忠誠を誓った。その同じとき、鬼に穢された荒地に百木百草が芽吹き、百の獣が生まれ、ともに頭を垂れたという。
 天人は五王とともに兵を率い、霊威をふるって鬼の王らの軍を退けた。そうして人々に乞われて島に留まり、国の始祖となった――

『双眸に星を宿して顕現した天の申し子。この瞳はあまねく人の世を見通し、人を真なる道に導くであろう――』そう星見に予言されて生まれてきた柳宮(やなぎのみや)家の嫡男白珠(はくじゅ)は、天人の器である大王の後継者候補の筆頭と期待された、前途有望な青年だった。
 だが後継者を決める儀式の日に起きたある事件をきっかけに右の目を失い、そればかりか宮城内での地位をすべてなくし、以来、市場で助けたつばめという少女だけを使用人に世捨て人のような生活を送っていた。
 そんな白珠の人生を変えたのは、妹の訴えだった。たった一人の妹小紅(こべに)が、鬼の巣窟として封じられ捨てられた旧都香久(かぐ)の御所守に任じられそうだというのだ。なんとか逃れる手はないものかと相談された白珠は、代わりに御所守の役目を買ってでる。
 かつての都香久に巣くっていたのは、元は人でありながら妄執に囚われ鬼と化した、鬼の王陽炎(かげろう)だった。
『星砕きの娘』から遡ること数百年、星の目を持つ男と鬼との壮絶な闘いを描いたファンタジイ大作!





星砕きの娘 (創元推理文庫)

『星砕きの娘』(文庫版・2021年7月刊)

 魔の化生、鬼の跋扈する地、敷島(しきしま)国。なかでも東の果てである果州(かしゅう)はとりわけ鬼の勢力が強かった。鬼は死なない。どんな力自慢にも鬼を退治することは難しく、人間は逃げるしかなかった。
 そんな果州の豪族の跡取りである鉉太(げんた)は、幼い頃に母と共に鬼に攫(さら)われて以来、鬼の砦に囚われの身となっていた。鬼の妻になることを拒否した母は牢獄に閉じ込められ、鉉太自身は他の囚人と共に鬼の雑役に使われる毎日だった。
 そんなある日、密かに砦を脱走しようと数人の若者が企てた。鉉太も一緒に連れて行ってくれと頼んだが、足手まといになるとすげなく断られてしまう。そのとき川を流れてきたのは一本の太刀と大きな蓮の蕾だった。太刀は他の若者に取られてしまうが、鉉太は蓮の蕾を抱えて鬼の砦に戻る。だが驚いたことに鉉太の腕の中で、蕾は女の赤ん坊に変化していた。赤ん坊は蓮華(れんげ)と名づけられ、あっという間に鉉太を「とと」と慕う、美しさと強さを兼ね備えた娘に成長する。だが、蓮華にはさらに不思議なことがあった。空に〈明〉の星が昇るたび、泣きわめく赤子に戻ってしまうのだ。
 鉉太が囚われて七年後、待ちに待った討伐軍がようやく都から鬼の砦に派遣され、鉉太は蓮華とともに晴れて自由の身になる。
 鉉太は、鬼を滅する不思議な力をもつ太刀〈星砕〉をふるう蓮華を連れて、都を目指すが……。

 鬼と人との相克、憎しみの虜になった人々の苦悩と救済を描いた感動のファンタジイ大作、文庫化!

◎選評より抜粋◎

天性のキャラクター描写の巧みさが、背景や構造を包み込む芸として膨らんだ(井辻朱美)

深い共感を覚える見事な作品。心の救いに関する考察が感動的だ。(乾石智子)

残酷さと艶やかさを同居させた語り口も素晴らしく、完全に頭ひとつ抜けている。(三村美衣)