6月に文庫化した、福田和代さん『東京ホロウアウト』。コロナ禍の東京を襲う物流崩壊サスペンスであり、緊急事態に立ち向かう市井の人々の奮闘を描いています。

〈物流〉がテーマということで、あまり知られていない長距離トラックドライバーの皆さんの仕事も詳細に描かれています。そこで、福田さんが自身のTwitterに掲載した、〈物流豆知識〉を、創作秘話や読者へのメッセージと共に、まとめてご紹介したいと思います!



●今日(2021年5月11日)、気仙沼港で今シーズン初のカツオの水揚げがあったそうです♡♡
https://kahoku.news/articles/20210511khn000054.html
作中、愛称「トラ」というドライバーが、気仙沼から豊洲市場までカツオを積んだトラックを走らせるシーンがあり、ちょっとムネアツ……。
鮮魚を積んで走るトラックは、翌朝のセリに間に合わなければ魚がムダになり、大きな損害を出すのだとか……。トイレに行く間も惜しんで、高速を走るそうです。
スーパーに並んでいるお魚が、どこで水揚げされてどうやって届いたのか考えるだけでも、凄いなと思います。


●トラックドライバーのお仕事についての良記事。
いつもありがとうと感謝するのは当然として、こんな過酷な仕事ぶりでは、人手不足にもなりますよ……。
https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210512-00237435/


●トラックドライバーに占める女性の割合は、2.4%だそうです。
トラガール、姫トラッカーなどと呼ばれているらしい。
まだまだ男性のお仕事というイメージですが、少しずつ女性も増やそうとしているようです。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/about.html


●トラックドライバーの高齢化も進んでいます。
総務省の労働力調査によれば、「道路貨物運送業」で働く人のうち、50歳以上が42%を占めています。
29歳以下の人は11%です。
これから高速道路の自動運転なども取り入れていくのでしょうか。


●東京ホロウアウトの取材では、いすゞプラザの見学コースにも参加いたしました。
トラックを間近に見られるのも魅力ですし、ここにある街と道路のジオラマ(いろんな車が走ってる!)が、めちゃめちゃ素敵なんですよ~♪ 働く車、いいですね!
https://www.isuzu.co.jp/plaza/
殺伐とした話ばかりもアレなんで。
私がいすゞプラザで撮ってきた、かっこいいトラックの写真も見てほしい。

いすゞのトラック


●「ホネ」って呼ぶそうですね。
コンテナを搭載する前の、枠組み(シャーシ)だけのトレーラーのことなんですけども。
最初に聞いたとき「ホネ!?」って思いましたけど、言われてみればそんな感じしません?
https://www.isuzu.co.jp/technology/daizukan/tractor-trailer/02.html


●取材で大井コンテナ埠頭に行くと、コンテナの受け渡しを待つトレーラーが、間隔をあけ、ハザードランプをつけて待機していました。
「ここの行列の長さを見れば、景気の良しあしがわかる」というドライバーさんの言葉が印象的でした。
大井コンテナ埠頭のサイトはこちら。
https://www.tptc.co.jp/guide/oi/about
トラックがずらっと行列してるのが景気の指標って、面白いと思うんですよね。


●取材中にお世話になった雑誌がこちら。「カミオン」と「トラック魂」です。
「カミオン」最新の6月号には、「コロナで何に困ったのか?」コーナーも。飲食店時短営業の影響で、社内でカップラーメンを食べることが増えたと……(涙)

「カミオン」「トラック魂」


●東京都中央卸売市場の統計情報、楽しいんですよ♡♡ たとえば今年3月、豊洲市場で取り扱った「鮮魚:かつお類」の出荷地は、全598トンのうち、1位宮崎県232トン、2位鹿児島県138トン、あわせて62%を占めることがわかります。
https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/torihiki/geppo/


●JR貨物の「タマネギ列車」を知ったのも、東京ホロウアウト取材中でした。8月から翌3・4月ごろまで、北海道のタマネギを載せて走る貨物列車です。
こういうのも、わくわくしますねえ♡♡
記事によると、帰りには肥料をつむことになったとか。
タマネギ列車って、タマネギ部隊を思い出すんですけどね……。パタリロの……。
https://www.agrinews.co.jp/rural/index/7108


●貨物列車26輌で、10トントラック65台分の荷物を運べるそうです。
わが国の貨物輸送で、鉄道のシェアはトンベースで1パーセント未満。トンキロベースで5パーセントほどなんですって。
いちどに大量の荷物が運べて、時間に正確なのが鉄道の魅力ですね。


●取材中に見つけた素敵な絵本。
『築地市場 絵でみる魚市場の一日』(モリナガ・ヨウ 作・絵、小峰書店)
豊洲に移転する前の市場の全貌を、イラストでみごとに描き残してくれた、傑作絵本です! 
https://www.komineshoten.co.jp/search/info.php?isbn=9784338282055
この絵本、豊洲バージョンは出るかなあ。見てるだけでも楽しいので、長く残って欲しい本です。


●きっかけは、東日本大震災直後の、宅配便のドライバーさんの言葉でした。ささやかな物資を東北に送る際、「まかせてください。道路にいちばん詳しいのは、僕らですから」と。
そのひとことで、トラックのドライバーという仕事に興味を持ちました。


●東京ホロウアウトを書くため、東京の物流が止まる可能性はあるか脳内シミュレーションし、毛細血管のような道路、鉄道、船など経路が複数あるので、東京の物流は安泰だと思いかけたのですが。
ひとつだけ、瞬間風速的な消費が吹き荒れた場合、「物が足りない」状態になる恐れがあるなと。
台風などの時、コンビニの棚から食品が消えたりしますよね。
首都圏の人口集中はハンパないので、いっきに需要が高まると、「まさかの事態」が起きるだろうと考えました。それが昨年の4月から5月ごろ、よもや現実になろうとは……。


●執筆中は、昭文社さんの1:500,000関東全図を壁に貼り、道路とにらめっこしていました(笑)
たいへんお世話になりました☆
ちなみに……『東京ホロウアウト』は、「東京オリンピック直前、コロナ禍に悩まされる東京で、さらに追い打ちをかける物流テロが」という話です。
東京オリンピックがらみで発生した問題を洗い上げていたら、もうどうしようもないくらい、凄かったですよー。

地図


●東京都中央卸売市場の統計情報、おススメです。
たとえばこちらで、令和2年3月から令和3年3月までの、全市場で取引された野菜の出荷地を検索すると、メキシコやニュージーランドからも野菜が入荷しているなど、新鮮な驚きが♪
https://www.shijou-tokei.metro.tokyo.lg.jp/asp/smenu3.aspx?gyoshucd=1&smode=20


●今は緊急事態宣言の影響で休館されていますが、クロネコヤマトさんの羽田クロノゲート見学コースは、「宅配便」のイメージをはるかに超える、「そうだったのか!」に満ちていました。
https://www.yamato-hd.co.jp/hnd-chronogate/


●東京ホロウアウトは、取材を許可してくださった元トラックドライバーさんがいなければ書けませんでした。
トラックからタクシーに乗り換える方がいらっしゃると聞いたことがあり、実は東京の観光タクシーに、トラックの乗務経験のある方がいらっしゃらないかとお尋ねしたのです。すると!
ご紹介いただいた方が、すごかったのです。
東日本大震災のただなかに、仙台でただ一台稼働していたトラックの運転手さん……。NHKの番組の取材も受けられたという、驚きの出会いでした。
おまけに、「僕、ミステリー大好きなんです!」
これ運命的な取材でしょ!
おかげで、東京周辺を観光タクシーで走り回りながら、物流のポイントをおさえていくという、予想以上に充実した取材になりました。
ドライバーさんは今は観光タクシーの方なので、東京のおすすめ観光スポットにも連れていってくれました♪
ちなみに、私は取材先を自分で探して、自力で突撃することが多いのです。編集者さんにお願いすればセッティングしてもらえますし、お願いしたこともあるのですが、たぶん取材そのものが好きなので(笑)
取材先を探すところから執筆は始まっている♡♡


●東京ホロウアウトの大きなテーマのひとつは、「ごみ処理も物流の一部」です。
23区清掃一部事務組合のサイトにはこう書かれています。
"現在、埋立作業が行なわれている中央防波堤新海面処分場は23区の最後の埋立処分場です。"
https://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/shiro/nakattara/05.html
「最後の埋め立て処分場? どういうこと?」
と思いませんでしたか。東京都環境局のサイトには、"東京港内には、この新海面処分場の次に処分場を設置できる水面はありません。"とも書かれています。
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/landfill/chubou/landfill_finite.html
最後の処分場は、あと50年以上、使えるそうです。
ゴミを減らして、今ある処分場をだいじに使うのも当然ですが、その後どうするのか、時間があるうちに考えないといけないのでは。
じわっと怖いデータでした。


●東日本大震災後、道路の通行実績をネットの地図に表示して、「この道は今でも通れる」とドライバーさんがわかるようにしていたじゃないですか。
あれ、今もITSJapanをはじめ、いろんなサイトが続けているんですね。
https://www.its-jp.org/katsudou2014/tabid_70/id70_1/


●カウントダウンも終盤に突入しましたので、作中の舞台である「オリンピックを間近に控えた」東京の話もしてみます。
連載は2018年から2019年、まさか「オリンピック直前の東京」が二年連続で出現するとは、夢にも思いませんでした。複雑な気分ですよ……。
東京オリンピック、招致の段階では反対してたんですが、決まってしまえばそれが国民の意思なんだろうから、あとは盛り上がるといいなと思ってたんですけどね。
その後に起きたり明らかになったりしたオリンピックがらみの事件が、けっこうひどくて。
そのうえにコロナですからね……。


●ひと月にわたり(笑)長々と続けて参りました、発売前のカウントダウン。いよいよ発売日(6/14)が接近してまいりました。
東京ホロウアウトは「泣ける」話ではありません。
ただ、読み終えて「明日も頑張ろう」と思える話です。
こんな時ですが、よろしければぜひ。


『東京ホロウアウト』(創元推理文庫)本日6/14発売!
オリンピック直前の東京で発生する物流の危機。
立ち上がったのは、トラックドライバー、スーパーやコンビニのスタッフ、主婦という"市井の人々"だった。
コロナ禍に対応した2021年バージョンです。
みんな、ぜったい生き抜こう!




『東京ホロウアウト』文庫版は、創元推理文庫にて好評発売中です!

東京ホロウアウト (創元推理文庫)
福田 和代
東京創元社
2021-06-14