リトル・グリーンメンというと、某ネズミ関係アニメに登場する三つ目のチビ怪物を思い浮かべる方がほとんどかもしれませんが、ここでは、特定のあの三つ目くんのことを指してはいません。
エイリアン全般を指していると思ってください。本作の主人公、ジョン・O・バニオン氏。プリンストン出の超売れっ子テレビ・パーソナリティの彼は、大統領さえ、自分の番組に呼びつけることが出来る、まさにのりにのっているワシントンの人気者でした。セレブたちのパーティに彼ら夫妻がいない日はないというほどの。
一方、同じワシントン市内のとあるビルの奥まった部屋が仕事場であるネイサン・スクラブスは30代なかば。ジェームズ・ボンド大好きな彼の夢は、CIAに入局して海外で大立ち回りを演じることでした。外国訛りのある美女たちと恋に落ち、マティーニを八か国語で注文できるようになる……等々。
ところが、現実はというと、CIAから届いたのは不採用通知。
しかし、同時に届いたのが、政府当局のミスター・スミスなる人物の名でCIA以上のエリート集団に採用するという通知でした。そこは〈MJ-12〉と呼ばれる国家安全の最重要任務を担う部局という触れ込みだったのです。
そこでの彼の任務とは……。
冷戦時代に遡る、その部局の役割は、アメリカ合衆国がUFOとの接触に成功し、そのテクノロジーを手に入れたとソ連に信じさせるというものでした。
そしてさらに、国内向けには、宇宙からの侵略をチラつかせることで、納税者たちの恐怖心をあおり、宇宙防衛活動の予算拡大を受け入れるように仕向けるという目的もありました。
そこで、全米各地で、UFOによる善良なる市民の拉致を時々演出、スクラブスはその作戦を担当していたのでありました。
しかし、はじめのうちは、楽しみとやりがいを感じていた彼も、いいかげん、そんな任務に嫌気がさし、異動願いを出すのですが、却下。
むしゃくしゃした気分で見ていたテレビに映るバニオンの自信に溢れた童顔(実は40代なのですが学生っぽい風貌)、鼻持ちならないエリートぶりに、はらわたが煮えくり返り、「そうだ、彼を拉致しよう!」と思いついてしまったのでした。
今までに経験を積んできたUFOでの拉致(アブダクション)。その手際は見事なもの。
バニオンは、ゴルフ場でUFOに拉致され、自分に起きたこの驚くべき出来事を信じ切ってしまうのでありました。
それまでの超エリート・テレビ・パーソナリティ、メディア文化人が突然UFOの存在を訴え始めたのですから世の中は騒然。誰もが、見てはいけないものを見たような顔で、なんとか無視して乗り切ろうとするのですが……。
バニオンはあくまで本気。
UFO信者たち、アブダクション経験者たちにとって、神のごとき存在となり、自分の番組内でも宇宙からの侵略の話を視聴者に訴えます。
政府高官も、友人たちも、今までのスポンサーたちも、もう黙ってはいられず、さあ、どうする?
エイリアンに拉致された経験のある女性たちをターゲットにした雑誌『コスモスポリタン』の美人編集者ロズ・ウェル、世界UFO会議議長の怪しげな原子物理学者、元軍人、老齢の上院議員……。
ワシントンの大騒動は、つい最近目にしたばかりのトランプ騒動を思い起こさせ、そのまま重ね合わせることができるほど。
陰謀策謀渦巻く、合衆国の実情はこんなものなのか……と本気で感心すること間違いなしです。
面白い、おかしい、いや、まさに抱腹絶倒という言葉がこれほどふさわしいものもありません。
クリストファー・バックリー氏は、1952年ニューヨーク生まれ。父親は保守派の有名な論客で『ナショナル・レヴュー』の創刊者であるウィリアム・バックリーJr.、母親はニューヨーク社交界で有名だったパトリシア・バックリー。
イェール大学卒業後、『エスクァイア』の編集に携わり、レーガン政権時副大統領を務めていたパパ・ブッシュのスピーチライターのひとりとして1981年から83年までホワイトハウスで働きました。
ワシントン住まいとなったバックリーは、新聞雑誌に時事コラムや政界ネタなどを書き続け、好評を博していました。
長年父親と同じ、共和党支持者だったのですが、2008年にオバマ支持を新聞紙上で表明(パパごめん、と書き)話題を呼びました。
とにかく、ホワイトハウス、合衆国の政財界、メディア関係者の内情などを知り尽くしたバックリー氏の書く陰謀小説(?)が面白くないわけがありません。
梅雨時の鬱々としたこの時期に、声を出して笑ってしまうこと間違いなしのこの一冊を、まあご一読ください。気が晴れて虹まで出てしまうこと間違いなしです。
*追伸(?) 今月末にアメリカ国防総省が合衆国議会にUFO関連の報告をするというニュースが、今、世界を駆けめぐっています。はてさて、いったい何事が出てくるのでしょう、どきどき……。UFOは〈MJ-12〉の仕業ではなかったのか?! (編集部MI)