昨年末に刊行した『偶然にして最悪の邂逅』(四六判上製)に続き、本格ミステリ短編集『パズラー 謎と論理のエンタテインメント』が文庫刊行となりました。収録作各作品を個人的な感想も加えて紹介していきます。

「蓮華の花」……高校時代の同窓会のため、地元に帰った作家の日能は、衝撃の事実を知る。大学時代に亡くなったと思っていたクラスメイトが実は生きていたーー。蓮華畑の広がる描写がとても素晴らしい作品です。

「卵が割れた後で」……フロリダを舞台に、日本人留学生が何者かに殺害された事件を捜査する刑事たちを描きます。アメリカ人から見た、日本人留学生たちの得体の知れなさが、アクセントとなっている名編です。

「時計じかけの小鳥」……書店で購入した文庫に、謎のメッセージと日付が入っている事に気づいた高木奈々。この日は、小四の時に友人たちと学校をさぼって遊びほうけていた思い出深い日付だった。いまとなっては懐かしいデザインの創元推理文庫版の『二人で探偵を』が登場します!

「贋作『退職刑事』」……中野で主婦が殺害された事件について、元刑事の父親に相談する五郎。この主婦の足取りを被害者はまさに都筑道夫の『退職刑事』、これにつきます。

「チープ・トリック」……女性を無理矢理うち捨てられた教会に連れ込んでのはずが、猟奇的な殺人に繋がっていく。「卵が割れた後で」と同様に舞台はアメリカ。西澤さんらしいエロティックで、アクロバティックな真相に注目です。

「アリバイ・ジ・アンビバレンス」……漫画家の両親の邪魔をしないように車の中で、時間をつぶしていた高校生の憶瀬陽一。車中から、同夜に起こった殺人事件の容疑者を見かけたが果たして? 登場する「委員長」のキャラがとてもいいのです。

 また今作は巽昌章さんの集英社文庫版の解説に加えて、阿津川辰海さんの魅力的な新解説も収録。「Wタツミ」解説で楽しんでいただければと思います。

 ちなみに、西澤さんは『あの日の恋をかなえるために僕は過去を旅する』も文庫刊行したばかり。6月には『神のロジック 次は誰の番ですか?』も文庫刊行を予定しています。併せてお楽しみください。