その彼が考えたこととは……
それは……偉大な歴史と偉大な知恵の集積を備えた古い国家、イングランドの高い市場性を活かそうという計画でした。「すべてがここにある」
イングランドのレプリカをつくろうというのです。
場所の選定……。白銀の海に浮かぶ貴重な宝石のような島でなくてはいけません。となると、シリー諸島? シャネル島? ランディ島? マン島? それとも人工島をつくる?
ピットマン氏が選んだのは、ワイト島でした(これは、彼なりの原価計算に基づいています)。イングランドの柔らかい下腹部の陰にそっと隠れている小さなかわいこちゃん。
しかし、住人はどうする? いや、島にいるのは、未来の従業員だ! とピットマン氏は叫びます。
そして、世間一般が望むイングランドの特質、これぞイングランドというものを調べ上げて、そこに集める。
王室(なんと、本当に王室を呼び寄せるのです! いかにして? それはここでは秘密です)、ビッグベン、ロビンフッドと陽気な仲間たち、ユニオンジャック、シェイクスピア、紅茶、ハロッズ、ガーデニング、うるさ型、なまぬるいビール、選択嫌い等々。
このプロジェクトに参加したマーサ・コクランという女性の二十五歳過ぎまでの人生と、イングランドの歴史と、新たに作られたイングランド・イングランドというレプリカの歴史が見事に対比されて物語は進んでいきます。
本物以上に本物化したレプリカ、イングランド・イングランドに人々は夢中になり、本家本元のイングランドは次第に……。
これぞイギリス的風刺の最たるもの。
先日、第24回岡本太郎現代芸術賞・特別賞を受賞された牛尾篤さんによるカバー装画がイングランド・イングランドの魅力を十二分に伝えてくださっています。カバーデザインは藤田知子さん。
ワイト島というと、そこでのフェスのジミ・ヘンドリクス(ジミヘン)がヘロヘロだったという評判で記憶されている方も多いかもしれませんが(実は死の19日前でした!)、これを読まれると、ワイト島は「イングランド・イングランド」として、記憶が置き換わるかもしれませんよ。
文庫化にあたって、古川日出男さんに素晴らしい御解説を頂きました。本文を読み終えて、もうひとつ、読む楽しみが待っているのですから、贅沢な一冊です。
今月19日に発売された創元ライブラリの一冊、ブッカー賞作家ジュリアン・バーンズの傑作を是非ぜひご味読ください。
(編集部MI)