乾ルカが贈る、札幌市を舞台にした連作ミステリ『わたしの忘れ物』が文庫刊行です。商業施設の忘れ物センターに届けられる様々な品物と、その持ち主にまつわる、とても心優しくなれるミステリです。


 例えば警視庁に届けられる遺失物は一昨年で400万点以上にものぼるそうです。昨年は恐らく新型コロナウイルスの影響で外出が減った影響でしょうが、それでも200万点以上と莫大な数字になっています。駅では傘が多いとニュース番組等でも紹介されるのを見た方も多いはず。

 そんな様々な物が届けられる忘れ物センターに、アルバイトとして加わることになった女子大生・中辻恵麻。決して望んだアルバイトではなく、学生課の女性スタッフにいわば押しつけられたようなものだ。ショッピングセンターのはずれに位置し、忘れ物は多く届く物の、実際に引き取りに来る人は少ない場所。ショッピングセンター各所から集められた忘れ物を仕分けし、窓口業務の補佐をする、いわば簡単なアルバイト。なぜ学生課の女性スタッフは、この忘れ物センターのアルバイトに行くよう恵麻に言ったのか? 最初は断るつもりの恵麻だったものの、スタッフの二人の優しさに触れて、短期のアルバイトを決意し……。

 そこで恵麻が出合った、六つの忘れ物と、忘れ物の持ち主たち。最初の「妻の忘れ物」では靴べら。なぜショッピングセンターに靴べらを、と多くの読者の方は思うかもしれませんが、そこにはしっかりとした理由が……。その他、手袋、時計、学生服など、遺失物の定番が登場しますが、その理由にはきっと驚かれるかと思います。そして、最終話のサプライズを、じっくりと味わっていただければ幸いです。

 自分の持ち物や、他人にきっと優しくなれる物語です。どうぞご堪能くださいませ。