市川憂人さんが贈る、本格ミステリ〈マリア&漣〉シリーズ。現実世界とは少し異なるテクノロジーが発達したパラレルワールドを舞台に、U国A州フラッグスタッフ署の名刑事ふたりが活躍する人気シリーズの、第3弾の文庫化をお届けします!


第1弾『ジェリーフィッシュは凍らない』の小型飛行船、第2弾『ブルーローズは眠らない』の青バラと続く、第3弾『グラスバードは還らない』の科学モチーフは、ずはりガラスです。

大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、顧客に不動産王ヒュー・サンドフォードがいるという情報を掴んだマリアと漣。ヒューには、ガラス張りの高層ビル・サンドフォードタワー最上階の邸宅で、秘蔵の硝子鳥(グラスバード)や希少動物を飼っているという噂がありました。2人は捜査打ち切りの命令を無視してタワーを訪れますが、そこで爆破テロに巻き込まれてしまいます。

同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の関係者ら4人は、窓のない迷宮に軟禁されていました。そばには、どこからか紛れ込んできた、ヒューが秘蔵する硝子鳥の姿も。彼らがヒューからの不気味な伝言に怯えて過ごしていると、突然壁が透明に変わり、血溜まりに横たわる男の姿が……!?

マリアと漣が巻き込まれた爆破テロを綴る「タワー」の章では、シリーズ随一の派手なシーン・高層ビルでの爆発からの脱出劇が描かれます。ビルが倒壊するタイムリミットが迫る中、マリアと漣は事件や犯人の手掛かりを掴むことができるのか? 手に汗握るサスペンスフルな展開に、ページをめくる手が止まらなくなることは必至です。

一方、ガラス張りの迷宮で起こる連続殺人を綴る「グラスバード」の章。壁が透明になるたびに、ひとり、またひとりと殺されていく『そして誰もいなくなった』系統の展開に、こちらも目を離せなくなることは間違いなし。隠れる場所のない密室で、犯人はどこへ消えたのか? 凶器をどのように持ち込んだのか? 推理パートで明かされる、ガラスならではの驚愕のトリックは、本格ミステリの醍醐味を存分に味わえます。

そして、タイトルに冠している硝子鳥(グラスバード)とは、何なのか。その意味が分かる、鮮やかにして叙情的なエンディングも、シリーズ随一の美しさがあり、胸を打ちます。

シリーズでお馴染みの、影山徹さん&鈴木久美さんによる、ステンドグラス風のカッコ良いカバーが目印です。本書の本格ミステリとしての面白さと、美しさと哀しみに満ちた文章の端正さを分析した、宇田川拓也さんの解説と共に、お楽しみいただければと思います。

また、〈マリア&漣〉シリーズ最新作にして初短編集、『ボーンヤードは語らない(仮)』は今夏に刊行予定です。こちらもお楽しみに!




ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)
市川 憂人
東京創元社
2020-03-12