〈昭和ミステリールネサンス〉企画からは仁木悦子『死の花の咲く家』(山前譲編 光文社文庫 900円+税)が出ています。角川文庫に同題の短篇集があるのですがこちらは新たなセレクトで、単行本初収録の短篇とショート・ショートが嬉しいですね。収録作ではSF的設定で書かれた「一日前の男」「ねむい季節」が仁木には珍しい。ただお薦めはなんといっても巻頭の「金ぴかの鹿」で、こういう冷々(れいれい)たる結末を時折見せてくれるのがたまらないのです。
新章文子『沈黙の家』(光文社文庫 980円+税)は、同企画で刊行された短篇集『名も知らぬ夫』から派生した復刊です。表題長篇を初めて文庫化するとともに、3短篇が併録されています。
不幸な事件で両親を亡くした新太郎とあゆみの姉弟は、実家を引き払って東京でふたり暮らしをはじめます。しかし新太郎にはかつて同性愛の関係にあった教師から連絡が来るようになり、あゆみは隣人の作家の女性問題に呑みこまれてしまい……。
姉弟の周辺の恋愛模様をめぐるサスペンスで、3章立ての2章の導入部には衝撃を受けることと思います。『名も知らぬ夫』をイヤミスとして楽しんだ方にはお薦めで、結末まで縺れに縺れる展開の面白さは充分でしょう。新章の長篇ではややもすると結末のツイストが過剰になってしまう印象もあるのですが、本作は余韻(よいん)を残した旨(うま)い幕引きを見せています。
新聞記者獅子内俊次は、難事件を独自の捜査で解決にみちびく青年探偵として警察当局から一目おかれる存在です。久しぶりの休暇をとって伊豆で静養していたところ、持ち前の好奇心から当地で死体を見つけ事件に巻き込まれてしまいます。事件の裏には、変装が得意な怪盗・三橋龍三の影がちらついて――『姿なき怪盗』。
甲賀の代表的な探偵役・獅子内の冒険活劇が楽しい作品です。春陽文庫版で本作だけが手軽に入手できた、というのも今は昔で、こうして単行本で復刊されるのはありがたいですね。「体温計殺人事件」「波斯(ペルシア)猫の死」と、甲賀らしさが良く出た中短篇が収められているのも嬉しいところです。
皆川博子の長篇ミステリ復刊企画が新たに始まっています。1巻あたり2長篇を収録する全四巻が予定されていて、『皆川博子長篇推理コレクション 1 虹の悲劇 霧の悲劇』(日下三蔵編 柏書房 3000円+税)はその初回配本です。
出版芸術社〈皆川博子コレクション〉全10巻は未文庫化作品を復刊するものでしたが、こちらは一度は文庫化まではされたものの現在入手難の長篇を復刊する企画で、殆(ほとん)どが80年代のノベルスとして刊行された作品になります。新しい読者に届くことを期待しましょう。