〈デフ・ヴォイス〉シリーズの丸山正樹、待望の新シリーズ開幕です。 
 今作の主人公は何森稔(いずもり・みのる)刑事。何森は、『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』『漂う子』『龍の耳を君に』『慟哭は聴こえない』と、これまで刊行されてきた、丸山作品のすべてに登場している名物キャラクターです。要所要所で、渋い働きをしてきた何森ですが、予想以上にファンが多いのに驚きます。ちなみにこの少し変わった名字「いずもり」は岡山県発祥と、インターネットでは紹介されています。


〈デフ・ヴォイス〉シリーズの主人公の荒井尚人同様、警察内の裏金作りに協力せずに、あくまでも刑事であろうとする何森ですが、組織に迎合しないとみなされ、各所を転々としています。本書『刑事何森 孤高の相貌』の第一話では埼玉県久喜署、第二話、第三話では飯能署に勤務しています。居所不明時児をテーマにした『漂う子』(愛知県が舞台)では、名前こそはっきりとは登場していませんが、最終章に「短躯だががっしりしりとした体つきの男だった」と刑事の描写がされていますから、特例として愛知県警に出向していたようですね。
 柔道が得意そうな体型に加え、煙草を愛し、一匹狼を貫く、昔ながらの刑事らしい刑事といえます。とはいえ、ただの強面の人物というだけでなく、人情味ある好人物として描かれています。
手話通訳士の荒井尚人に(心の底では)共感しつつも、刑事であることを選んだ何森の葛藤など、これまで紹介されてこなかったエピソードや設定も、今作では丁寧に描かれています。

 第一話「二階の死体」は、何森が久喜署に勤務していた時に遭遇した事件。どこの署でも腫れ物をさわるかのような扱いのためか、コンビを組んだのは、どこかさえない間宮という男性刑事。第二話「灰色ではなく」と、第三話「ロスト」は、とあるシリーズキャラクターが相棒となります。それぞれ相棒との掛け合いなど、警察小説としての読みどころも満載です。

 はじめて今作を手に取られる場合は、『慟哭は聴こえない』に所収の「静かな男」をぜひ併せてお読みいただけると幸いです。
 著者がファンだと公言している、『湿地』『湖の男』のアーナルデュル・インドリダソンの犯罪捜査官エーレンデュルに負けないような、息の長い評判のシリーズとなりますよう、みなさま応援よろしくお願いいたします。







慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス
丸山 正樹
東京創元社
2019-06-28