「時代小説のヒーローは、実は名探偵だった!」というコンセプトからスタートした、編者・末國善己さんが贈る「時代小説のヒーロー×本格ミステリのシリーズ」。2017年3月に刊行された第1弾・柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』は、「眠狂四郎が創元推理文庫に!」という意外性で好評をいただき、即重版となりました。
以降、シリーズは巻を重ね、9月25日に刊行する『菖蒲狂い 若さま侍捕物手帖ミステリ傑作選』で第6弾となります。それを記念して、ここで今までのシリーズを振り返りたいと思います!

江戸時代を舞台に、美貌の剣士、さすらいの旅人、いなせな親分、投げ銭を得意とする岡っ引き、武芸の達人にして剣士、姓名・身分不明の若侍たちが、異色の名探偵として密室殺人や暗号解読に挑むシリーズを、ぜひお楽しみください!

***********

第1弾:柴田錬三郎/末國善己 編『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』
ころび伴天連(バテレン)の父と武士の娘である母を持ち、虚無をまとう孤高の剣士・眠狂四郎。彼は時に老中・水野忠邦の側頭役から依頼を受け、時に旅で訪れた土地で謎と遭遇して、数々の難事件を解決する名探偵でもあった。密室状態にある大名屋敷の湯殿で、奥女中が相次いで不可解な死を遂げる「湯殿の謎」。寝室で花嫁の首が刎(は)ねられ、代りに罪人の首が継ぎ合せられていた「花嫁首」。時代小説の大家が生み出した異色の名探偵が奇怪な事件に挑む、珠玉の21編を収録する。

【眠狂四郎(ねむりきょうしろう)】
時代小説の大家・柴田錬三郎が生み出した、ダークヒーローの剣士。転び伴天連(バテレン)の父と武士の娘である母の間に産まれるという、暗い生い立ちを背負う。虚無と孤独を抱えながら、「円月殺法」という剣術をふるい、無敵の活躍を繰り広げる。シリーズはベストセラーとなり、戦後の剣豪小説の一大ブームを巻き起こした。
映画化をはじめとした数多くのメディアミックスも行われ、鶴田浩二、市川雷蔵、松方弘樹、片岡孝夫、田村正和、Gacktなどが眠狂四郎を演じた。

三度笠を被り長い楊枝をくわえた姿で、無宿渡世の旅を続ける木枯し紋次郎が出あう事件の数々。兄弟分の身代わりとして島送りになった紋次郎がある噂を聞きつけ、島抜けして事の真相を追う「赦免花は散った」。瀕死の老商人の依頼で家出した息子を捜す「流れ舟は帰らず」。ミステリと時代小説、両ジャンルにおける名手が描く、凄腕の旅人にして名探偵が活躍する傑作10編を収録する。

【木枯し紋次郎(こがらしもんじろう)】
本格ミステリと時代小説における名手・笹沢左保が生み出した、天涯孤独な凄腕の旅人(たびにん)。幼い頃に家を出て以来、博奕(ばくち)で生計を立てながら諸国をさすらう。トレードマークは三度笠に縞の合羽、くわえた長い楊枝。
1972年に〈市川崑劇場〉として中村敦夫の主演でドラマ化される。ドラマは人気番組となり、紋次郎は「あっしには関わりのねえことでござんす」という決め台詞とともに、国民的ヒーローとして一躍有名になった。

幕末の江戸。神田千両町に暮らす岡っ引の辰親分は、御用のかたわら福引きの一種である“宝引”作りをしていることから、“宝引の辰”と呼ばれていた。親分は不可思議な事件に遭遇する度に、鮮やかに謎を解く! 殺された男と同じ彫物をもつ女捜しの意外な顛末を綴る「鬼女の鱗」。謎の画家が残した吉祥画を専門に狙う、怪盗・自来也の真意を探る「自来也小町」。美貌の女手妻師・夜光亭浮城の芸の最中に起きた、殺人と盗難事件の真相を暴く「夜光亭の一夜」。ミステリ界の魔術師が贈る、それぞれの事件関係者の一人称視点から描かれた傑作13編。

【宝引の辰(ほうびきのたつ)】
〈亜愛一郎〉〈曾我佳城〉〈ヨギガンジー〉シリーズなどを代表作に持つ、ミステリ界の魔術師・泡坂妻夫が生み出した、岡っ引の親分。幕末の江戸、神田千両町に妻と娘と共に暮らす。御用のかたわら、福引きの一種である“宝引”作りをしていることから、“宝引の辰”と呼ばれている。武器は鉤縄。
1995年にNHK金曜時代劇で、小林薫の主演でドラマ化された。
第4弾:野村胡堂/末國善己 編『櫛の文字 銭形平次ミステリ傑作選』
神田明神下に住む、凄腕の岡っ引・銭形平次。投げ銭と卓越した推理力を武器にして、子分のガラッ八(ぱち)と共に、江戸で起こる様々な事件に立ち向かっていく! 暗号が彫られた櫛をきっかけに殺人が起こる「櫛の文字」。世間を騒がす怪盗・鼬小僧(いたちこぞう)の意外な正体を暴く「鼬小僧の正体」。383編にも及ぶ捕物帳のスーパーヒーローの活躍譚から、ミステリに特化した傑作17編を収録した決定版。

【銭形平次(ぜにがたへいじ)】
作家・音楽評論家として知られる野村胡堂が生み出した、「五大捕物帳」のひとつ、「銭形平次 捕物控」の主人公。江戸時代、神田明神下で恋女房のお静と共に暮らす岡っ引。子分の八五郎ことガラッ八(ぱち)を従え、投げ銭を武器に活躍する。
映像化も数多く行われ、長谷川一夫、里見浩太朗、大川橋蔵、風間杜夫、北大路欣也、村上弘明などの主演で映画化・ドラマ化された。
第5弾:南條範夫/末國善己編『血染めの旅籠 月影兵庫ミステリ傑作選』
徳川11代将軍家斉の時代。時の老中・松平信明を伯父にもつ、明朗な青年剣士・月影兵庫。彼は伯父の秘命を帯びた道中や、相棒の安との旅路で事件に遭遇する度に、鋭い洞察と武芸を駆使して謎を解く。大雨で足止めを食らった人々が滞在する旅籠で、殺人が起こる「血染めの旅籠」。盗賊が豪商から盗み出した千両箱の在処を探す「偉いお奉行さま」など、剣豪小説の名手が贈る傑作17編。

【月影兵庫(つきかげひょうご)】
『駿河城御前試合』(山口貴由の漫画『シグルイ』の原作)などで知られる、剣豪小説の名手・南條範夫が生み出した青年剣士。徳川11代将軍家斉の老中・松平信明を伯父にもつ。武芸の達人で、必殺技・上段霞切りを得意とする。
勝新太郎、近衛十四郎、村上弘明、松方弘樹の主演で映画化・ドラマ化された。特に1965年に放映された近衛十四郎版のドラマは、品川隆二演じる渡世人・焼津の半次との軽快な掛け合いから人気を博し、高視聴率を記録した。



柳橋の船宿に居候する、“若さま”と呼ばれる謎の侍がいた。姓名も身分も不明だが、事件の話を聞いただけで真相を言い当てる名探偵でもあった。菖蒲作りの名人の娘が殺され、些細な手がかりから犯人の異様な動機に辿り着く「菖蒲狂い」など、250編近い短編から厳選した25編を収録。「五大捕物帳」の一つにして、〈隅の老人〉に連なる伝説の安楽椅子探偵シリーズの決定版、登場!

【若さま(わかさま)】
怪奇小説やショートショートの名手として知られ、探偵小説専門誌『宝石』の創刊に携わった城昌幸が生み出した若侍。船宿喜仙に居候し、毎日のように喜仙の一人娘・おいとに酌をさせている、姓名・身分不明の謎の青年。上品な佇まいから高貴な生まれを思わせるが、伝法な口調で話し、剣の腕が立つ。南町奉行所与力・佐々島俊蔵や、御用聞き・遠州屋小吉の依頼で謎を解く。
映像化も数多く行われ、黒川弥太郎、坂東鶴之助、大川橋蔵、夏目俊二、六代目 市川新之助、林与一、田村正和、東山紀之の主演で映画化・ドラマ化された。