夕暮れどきの宿で、ネッテスハイムがつけた明かりに驚いたように何かが椅子の下に転がり込んだ。毛の生えた光沢のある外見、かぼそい息づかい。それは次第に大きくなり、ついに……。表題作「黒い玉」をはじめとする、14編の短編を収録。

 どれも短いながら、ありふれた日常に潜む闇、奇妙な味、不条理なものに対する恐怖など、さまざまな怖さが詰まった作品揃い。

 日本の怪談とも、英国の幽霊譚ともひと味ちがう、現代ベルギーの幻想文学。寝る前に一編読んでみると、素敵な悪夢が見られそう。残暑に寝苦しい夜にお薦めの逸品です。