〈名作ミステリ新訳プロジェクト〉2020年8月の新刊は、マクロイ、エリン他/小森収編/直良和美他訳の豪華アンソロジー『短編ミステリの二百年3』です。

2019年10月刊の『短編ミステリの二百年1』と2020年3月刊の『短編ミステリの二百年2』はともに重版をし、たくさんの好評をいただいております。その続きとなる第3巻の本書には、11作家の11短編と編者の評論を収録してお届けします。

本書は、書評家の小森収氏がこの〈Webミステリーズ!〉で現在も連載中の評論「短編ミステリの二百年」をベースに、純粋に面白い作品から歴史上重要な位置を占める作品まで、さまざまな短編を集めたアンソロジーです。今回も、『世界推理短編傑作集』全5巻と作品の重複はいっさいありません。

第3巻の収録作品はこちら。11短編のうち10編は本書のための新訳で、ブラウン「最終列車」のみ本年1月に刊行した『フレドリック・ブラウンSF短編全集2』において新訳されたバージョンを使用しました。

「ナボテの葡萄園(ぶどうえん)」メルヴィル・デイヴィスン・ポースト/門野集訳
「良心の問題」トマス・フラナガン/藤村裕美訳
「ふたつの影」ヘレン・マクロイ/直良和美訳
「姿を消した少年」Q・パトリック/白須清美訳
「女たらし」ウィルバー・ダニエル・スティール/門野集訳
「敵」シャーロット・アームストロング/藤村裕美訳
「決断の時」スタンリイ・エリン/深町眞理子訳
「わが家のホープ」A・H・Z・カー/藤村裕美訳
「ひとり歩き」ミリアム・アレン・ディフォード/猪俣美江子訳
「最終列車」フレドリック・ブラウン/安原和見訳
「子供たちが消えた日」ヒュー・ペンティコースト/白須清美訳
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「短編ミステリの二百年」小森収
 第三章 英米ディテクティヴストーリイの展開(承前)
  9 アメリカン・パズルストーリイの陰の流れ1――M・D・ポースト
  10 アメリカン・パズルストーリイの陰の流れ2――T・S・ストリブリング
  11 アメリカン・パズルストーリイの陰の流れ3――トマス・フラナガン
 幕間 ふたつの戦争、ふたつの浜辺
 第四章 EQMM年次(アニュアル)コンテストとスタンリイ・エリンの衝撃
  1 EQMM年次コンテスト受賞作
  2 初期コンテストから見るクイーンの戦略
  3 屹立する作家の肖像ACT1
  4 コンテスト初期の原動力となった作家1――ヘレン・マクロイ
  5 コンテストの拡大と充実
  6 コンテスト初期の原動力となった作家2――Q・パトリック
  7 最盛期に向けて
  8 パズルストーリイの栄光――「敵」と「アデスタを吹く冷たい風」
  9 アームストロングの全体像
  10 上昇していく受賞作の水準
  11 大ヴェテランの試行錯誤
  12 クライムストーリイの栄華――「決断の時」と「黒い小猫」
  13 A・H・Z・カーの位置
  14 拡大する受賞作
  15 中堅作家群像
  16 コンテストの拡張とイヴェント化
  17 異端児デイヴィッドスン
  18 使命の終わり
  19 総括
 第五章 四〇年代アメリカ作家の実力
  1 四〇年代アメリカの状況
  2 フレドリック・ブラウン1――四〇年代短編ミステリ&SFの王者
  3 フレドリック・ブラウン2――彼はアイデアストーリイ作家なのか?
  4 量産型作家(アヴェレージヒッター)の先駆者――ヒュー・ペンティコースト
  5 シリーズキャラクターの時代に向かって

第3巻収録作品はエラリー・クイーンが創刊した雑誌〈エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)〉掲載作品が多く含まれます。小森収氏の評論でもこのEQMM、ことに短編作家の登竜門として高名なEQMM年次コンテストの成り立ちや、後世のミステリ界に与えた影響と意義について論じつくされておりますのでぜひご一読を。

そして、その評論中に資料として掲載したコンテスト全受賞作リストは、加筆修正のうえ近日〈Webミステリーズ!〉上で公開いたします。Web上ではおそらく唯一無二となる資料性の高さはもちろんのこと、ながめているだけでも発見のあるリストですので、どうぞお楽しみに。

収録作品のうち、アームストロング「敵」とエリン「決断の時」は、ともにEQMMコンテストの第一席=最優秀賞を受賞した傑作中の傑作(ちなみに、第2巻収録のロイ・ヴィカーズ「二重像」も第一席受賞作です)。どこかで読んでいるかたも多いかもしれませんが、今回の新訳でよりはっきりと作品の奥行きを感じていただくことができるはずです。

ポースト「ナボテの葡萄園」、フラナガン「良心の問題」そしてペンティコースト「子供たちが消えた日」の3編は、いずれも一線級の謎解きミステリであると同時に、読後に強く心に残るものがある一級品の短編小説です。今回の収録作品には強烈な苦さを含んだ短編もありますが、これらの作品が巻頭と巻末にあることで、アンソロジーとしての後味は非常に良いものとなっている。そう思います。

この『短編ミステリの二百年3』は8月24日発売となります。そして次巻『短編ミステリの二百年4』は今冬刊行予定です。既巻をお手元に置きつつ、どうぞ期待してお待ちください!

短編ミステリの二百年1 (創元推理文庫)
モーム、フォークナー他
東京創元社
2019-10-24


短編ミステリの二百年2 (創元推理文庫)
チャンドラー、アリンガム他
東京創元社
2020-03-19


短編ミステリの二百年3 (創元推理文庫)
マクロイ、エリン他
東京創元社
2020-08-24