2020年も絶賛継続中の創元推理文庫〈名作ミステリ新訳プロジェクト〉。今年2月以降の刊行ラインナップは以下のとおりとなっています。

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2月 ドロシー・L・セイヤーズ/猪俣美江子訳『大忙しの蜜月旅行』
2月 マーガレット・ミラー/宮脇裕子訳『鉄の門』
3月 チャンドラー、アリンガム他/小森収編/猪俣美江子他訳『短編ミステリの二百年2』
4月 アガサ・クリスティ/山田順子訳『ハーリー・クィンの事件簿』
5月 G・K・チェスタトン/南條竹則訳『知りすぎた男』
6月 ガストン・ルルー/平岡敦訳『黄色い部屋の謎』
7月 エラリー・クイーン/中村有希訳『エラリー・クイーンの新冒険』
8月 マクロイ、エリン他/小森収編/直良和美他訳『短編ミステリの二百年3』【近刊】
(以下続刊)

このうち今回ご紹介するのは、7月の新刊となるエラリー・クイーン/中村有希訳『エラリー・クイーンの新冒険』です。この『新冒険』は、2018年7月に新訳版を刊行した第一短編集『エラリー・クイーンの冒険』に続く、巨匠クイーンの第二短編集となります。『冒険』の新訳版と同じく初刊本を底本に、9編すべてを中村有希さんに新訳していただきました。

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本書の収録作9編は、大きく分けると3つに区分されます。

まずは巻頭を飾る中編「神の灯」。「巨大な屋敷が一夜にしてまるごと消える」という強烈な謎を名探偵エラリーが鮮やかに解き明かす、多くの人がクイーンの中短編の最高傑作にあげる作品です。この「家が消える」という謎はとりわけ日本のミステリ作家を魅了するようで、江戸川乱歩は「黒い家」の訳題で自ら翻訳を手がけましたし、同様のシチュエーションに挑んだ実作として泡坂妻夫「砂蛾家の消失」『亜愛一郎の転倒』収録)、二階堂黎人「ロシア館の謎」などがあります。まずは元祖といえるこの「神の灯」で、クイーンの名人技をご堪能ください。

続く第二グループ「新たなる冒険」は『冒険』に収録された短編と同じく、「○○の冒険」(原題はいずれもThe Adventure of the ○○)でタイトルが統一された4短編。いずれも工夫を凝らした設問とその論理的な解決が楽しめる、第一短編集の延長線上にある作品群です。「暗黒の家の冒険」には初期の人気キャラクター・ジューナも顔をのぞかせます。

そして最後のグループは「エラリー・クイーンの異色なスポーツ・ミステリ連作」。エラリーが長編『ハートの4』で初登場したガールフレンドのポーラ・パリスとともに、野球、競馬、ボクシング、アメリカンフットボールという4つのスポーツ競技にからんだ謎を解いていく、軽妙な雰囲気の中にもしっかりクイーン流謎解きのエッセンスを効かせた連作です。なお、「人間が犬を噛む」「トロイの木馬」の2編は微妙に訳題を変更しました(旧訳版でのタイトルはそれぞれ「人間が犬をかむ」「トロイアの馬」)。

そして上に掲載した書影にもあるように、帯には有栖川有栖先生と青崎有吾先生のダブル推薦コメントをいただきました。『冒険』に続いてお二方が巨匠の傑作に寄せた、熱いコメント全文は帯の裏に記載しましたので、ぜひ実際にお手を取ってご覧ください。

『エラリー・クイーンの新冒険』は7月22日発売となります。


エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーン
東京創元社
2020-07-22


エラリー・クイーンの冒険【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーン
東京創元社
2018-07-20