今年1月に行われた、「第6回全国高等学校ビブリオバトル決勝大会」にて、埼玉県立春日部女子高校の印南舞さんが紹介した、『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)がグランドチャンプ本に選ばれました。
もともとベストセラーの同作ですが、印南さんの活躍もあり、同世代の高校生読者層からの評判も高まっているとのことです。
もともとベストセラーの同作ですが、印南さんの活躍もあり、同世代の高校生読者層からの評判も高まっているとのことです。
同作にはじまる〈デフ・ヴォイス〉シリーズは、ろう者の親から生まれる聴こえる子(Children of Deaf Adults)=コーダである、主人公の荒井尚人が手話通訳士として活躍するミステリです。
手話通訳士といえば、今春の新型コロナ騒動におきまして、政府や各知事の会見時に手話通訳士が見切れていたり、手話通訳士がマスクをしないのは何故、といった話題もSNSを中心にありました。手話通訳士のマスクについては、手話において口の表現も非常に大切なため、フェイスシールドや口部分が透明になった特別なマスクなどを使用するケースが増えてきました。
さて、『龍の耳を君に デフ・ヴォイス』ですが、第一作『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』から二年後が舞台となっています。悩みながらも手話通訳を続けている、荒井尚人。籍は入れていないものの、恋人のみゆき、そしてみゆきの娘の美和と三人で暮らすことになったのが前回からの大きな変化。
第一話「弁護側の証人」は、被害者を「騒ぐな、金を出せ」と脅して強盗容疑で逮捕されたろう者の話。その裁判にて手話通訳をすることになった荒井が独自に事件を調べると、被告がろう学校に在籍していた時には発話の成績はよかったということがわかり……。
第二話「風の記憶」は、ろう者がろう者に対して詐欺行為を行っていた事件について。同じ障害を持つ人間が、犯罪行為を行うという、とてもセンセーショナルな内容ですが、荒井の真摯な姿勢が胸を打ちます。このお話しの登場人物は、とても人気が高く、シリーズ第三弾『慟哭は聴こえない』でもいい活躍をしています。
第三話が表題作でもある「龍の耳を君に」。美和のクラスにいる英知という少年は、クラスの担任とうまくいかずに不登校になっているという。英知は場面緘黙症で会話ができないことから、手話を憶えることが何かのきっかけになるのではと荒井は考え、美和とともに手話を教えることに。すると、手話が上達してきた英知が、以前家の目の前で殺人事件を目撃したと話し始めて……。手話をマスターした英知が「僕は龍の耳を持っている」と話すシーンは涙なしには語れません。
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』をお読みで、はじめて『龍の耳を君に』を手に取った読者の皆さん、少し触れましたが第三弾『慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス』も絶賛発売中です。さらに、これまでの丸山作品にて渋い活躍をみせていた何森稔(いずもり・みのる)刑事を主人公にしたミステリの刊行も決定しております。『刑事何森 孤高の相貌』を今年9月刊行に向けて、現在準備を進めております。こちらもお楽しみに!