コスタ賞の対象と児童書部門をダブル受賞して話題を浚った『嘘の木』、英国幻想文学大賞を受賞、カーネギー賞の最終候補にもなった『カッコーの歌』に続き、フランシス・ハーディングの新作『影を呑んだ少女』が2020年6月に刊行されました。
今度の舞台は17世紀英国。英国が国王派と議会派に分かれて戦っていた内乱の時代です。といっても、歴史がわからないと楽しめない作品ではありません。
母を亡くし孤児になった主人公の少女メイクピースは、顔も見たことがない父の一族に引き取られます。実はメイクピースにはある特異な能力があり、彼女の母は娘がその能力を制御することができるように、非情ともいえる訓練を施していたのです。その能力とは、霊を自分に取り憑かせるというもの。その辺にいる幽霊に勝手に取り憑かれないように、母はメイクピースの心の防御を鍛えてくれていたのでした。
メイクピースを引き取った父親(すでに亡くなっています)の一族フェルモット家は古い家柄で、メイクピースはそこで自分の能力がこの家に伝わるものだったことを知ります。 一族は、メイクピースをある目的で引き取ったのですが、それを知った彼女は、屋敷を逃げ出すことを決心します。
ここまで運命の荒波に揉まれ、流されていたように見えるメイクピースですが、ここからが『嘘の木』『カッコーの歌』の著者の本領発揮、俄然メイクピースが生き生きとしてきます。
国王派と議会派があちこちで小競り合いを繰り広げるなか、霊を取り憑かせるという能力以外になにも持たないたった15歳の少女が、ときに両派の争いを利用し、迫るフェルモット家の追っ手をかわし、絶体絶命の危機を乗り越えてゆきます。