「捨て石」と言うと、何だかイメージが悪い。捨て石にされた等と言うと非人間的な感じが付きまとう。果たしてそうなのか。『新明解』によると、単調を破るために庭の所どころに据えておく石とか、水勢をそいだり護岸のためなどに水中に投げ入れる石とかある。また他日の利用のためにするむだなようにみえる投資(行為)や大事を行う上でのやむを得ない犠牲の意ともある。大所高所でのイメージと考えると、悪いばかりではない。


 さて囲碁というゲームは、361路に黒白交互に打って、互いに囲った地の多寡を争うものである。また囲まれて、目(呼吸点)の無くなった石は死んでいるというルールもある。そこが囲碁というゲームを複雑にかつ豊かにしている。そうして一目でも多く囲うために熾烈な戦いを繰り広げるのだが、地を囲っても打ち込まれると地は消える。単に囲い合っているだけでは終わらないし、勝つこともできない。一局の碁には、囲うための作戦や戦術がある。

 また石が拮抗し戦うための作戦や戦術もある。「捨て石」も避けて通れない重要な戦術である。10子の石を捨てて、21目を得ることが出来れば成功である。強い人は、「捨て石」が上手である。というより「捨て石」の上手な人は強い。状況に応じていつでも石を捨てられる。何でも捨てればよいというものではないが、弱い人は簡単に石を捨てられない。捨てるべき石を無理に活かそうとして、状況を悪化させることが多々ある。

 本書は、絶対に捨てるべきでない石と捨てるべき石の区別から、石を適切に捨てる手法を解説した。読了し、「捨て石」上手になれば、囲碁観に一層の厚みが加わり、棋力も向上するはずである。