タイトルというのは本の顔である、というのはよく言われることだと思います。本書『おれの眼を撃った男は死んだ』(原題:The Man Who Shot Out My Eye Is Dead)はまさにタイトルが内容の雰囲気を表していると思います。暴力的で怖い印象なのに、なぜか惹きつけられてしまい、頭から離れないーー。


担当編集者であるわたくし東京創元社Sが本書と出会ったのは、アメリカの出版社が作成した本のカタログでした。世界各国で開催されるブックフェアという本の見本市用に作成されたものだと思います。色とりどりの書影が並ぶカタログを眺めていたら、真っ黄色の背景に、青い鳥籠が描かれ、赤い文字でタイトルが印刷されているこの本を見つけたのです。シンプルなのにとにかく目立つな、というのが第一印象でした。そしてThe Man Who Shot Out My Eye Is Deadというタイトルは、いったいどういう意味なんだろうと思いました。文章の意味はわかるのに、シチュエーションがわからなかったんですね。そして気になってあらすじを読んでみると、どうやら短編集らしいということを知りました。

あらすじ、というか内容紹介にはいろいろ気になる単語がありました。各短編の舞台となっている場所も、Philadelphia(フィラデルフィア)というアメリカの具体的な地名もあれば、sixteenth-century English monk(16世紀のイギリスの修道院)という、歴史小説なの?という疑問が浮かぶような場所まで。とにかく幅広い年代や場所を舞台に、暴力や残酷さについて描いているようだ。そして主人公には女性が多そうだ。うむ。なんともすごそうな作品である。こういう癖のありそうな短編集を気に入ってくださる翻訳者さんはーーと考えた時に、ぱっと高山真由美先生のお顔が浮かびました。

かくして高山先生に本書の原稿を読んでいただいたところ、「十編全部、すごい力作です」という力強いお言葉が返ってきたのでした。高山先生にはご自分で見つけて持ち込んでいただいたロバート・ロプレスティ『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』『休日はコーヒーショップで謎解きを』の翻訳をお願いしていたこともあり、本書の刊行には時間がかかりましたが、ようやく読者の皆さんにお届けすることができ、とても嬉しいです。

この短編集に収録されている10編は、すべて救いがないと感じられる話だと思います。西部劇の舞台のような町、黒人奴隷が鞭打たれるプランテーション、現代アメリカの壊れた家庭、砂に埋もれたユートピア、16世紀イギリスの修道院……。暴力と欲望に満ちたさまざまな時代と場所で、夢も希望もなく、血まみれで生きる大多数の登場人物たちは、何かにおびえ、暴力に耐え、死をそばで感じ、幸せのなかにも仄暗い感情を抱えています。

しかしそんな内容なのに、わたしたちをとてつもなく惹きつけるはずです。体に痺れが走るような文章に、何度も出会うことでしょう。暴力や死は恐ろしいものですが、同時に魅力を覚えることもあるのではないか。そんな矛盾した、複雑な人間の本質を暴き出していると思います。非常に新人離れした作品集で、どの短編も完成度が高く、癖と重みがあり、読者をどっぷり浸からせるだけの深さがあります。

読者の方には、本書の内容から目をそらさず、ゆっくりとページをめくっていただければと思い、特別に本文の書体を工夫しました。いくつか候補の書体を選んで文字組を考え、印刷所さんにお願いして見本を出してもらいました。それを高山先生とご相談の上、文章の雰囲気にいちばん合いそうな書体を選ぶ、ということをしています。また、原書以上にインパクトのある装幀にしたいなと考え、デザイナーの山田英春さんに、カバーや表紙、扉、目次などの装幀をお願いしました。とてもスタイリッシュかつインパクトのある装幀にしていただきました。タイトルが目立って格好いい!! 電子書籍も同時発売しますが、この本はぜひ紙の本を手にとっていただければ嬉しいです。

また、冒頭の一編「よくある西部の物語」の全文を、なんと〈Webミステリーズ!〉で先行公開しています! このような贅沢なプロモーションをご快諾くださった著者と高山先生にはほんとうに感謝しております。この記事を読んでちょっと気になった方、ぜひ先行公開のこの作品を読んでみてください。そしてさっそく読んで感想をTwitterなどでお知らせしてくださった皆様、ありがとうございます!



最後に、タイトルについて。本書の詳細ページには目次を掲載しており、10編すべてのタイトルがわかります。しかし「おれの眼を撃った男は死んだ」という作品はないのです。これはいったいどこから生まれたタイトルなのか? 気になった方はぜひ本文をお読みいただければ……。著者のセンスにやられてしまうこと間違いなしと思います。

(東京創元社S)