《『忘却城』選評より抜粋》
綺譚とグロテスク・ホラーの感性を合わせもち、(中略)異形のものたちが集う世界は、まがまがしくも強いヴィジュアル効果がある。――――井辻朱美
大きな世界がきちんと考えられて構築されていた。万色が遊ぶ広い空間を感じさせた。――――乾石智子
豊かなイマジネーションと、雰囲気、その場の外連味で押し切る力があって、それぞれのシーンは読ませる。――――三村美衣
◆5月刊行最新刊『忘却城 炎龍の宝玉』
汝、幽世の門を閉ざし、
凍てつきし永久の忘却城にて死霊を見守る者
死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国。
王都で家庭教師を営んでいた儒艮が私塾を開くために購入した物件は、札付きの幽霊屋敷。引っ越し初日から怪奇現象が多発し、同居する金魚小僧をおびえさせていた。
そんな折、瀕死の炎龍が首狼街に飛来し、労働力として使役されていた死者たちが炎上し、街を大混乱に陥れる。
神をもたない亀珈王国にとって、炎龍は至高の存在だ。黄王は王宮の奥にある龍泉に怪我をした炎龍を迎え入れる。だが、龍語を解するのは蘇った死人と生きた人間の間に生まれた界人だけ、そこで急遽界人である儒艮が通訳に指名される。
儒艮はいまや大切な家族となった金魚小僧のため、ある目的を胸に秘め、大役を引き受けるが……。
独特の世界が読む人を引きつけて放さない〈忘却城シリーズ〉待望の第三巻。
《用語集より抜粋》
炎域(えんいき)
炎龍の聖域。炎龍を中心に反魂術を無効化させる炎上領域で、範囲内に入った死者は、送尸術、降霊術、蘇生術のどれで蘇ったかを問わず自然発火する。
黄天龍(おうてんりゅう)
炎龍らの王。龍王、中央炎龍侯とも呼ばれる。500年前、千形族の打倒を掲げた黄一族を助成した炎龍。初代黄王に自らの牙を授けた。
嬉嬉狐(ききこ)
嬉嬉狐王の眷属。黒い狐の人外の総称。嬉嬉狐王と初代黄王の友好により、現在も禁城内廷を守護している。人間の姿をとって、黄王家の身辺警護を担い、間諜としても働く。
比和院(ひわいん)
首狼街にある死者が絶えないことで有名な元豪邸。長く空き家だったが、儒艮が買い取ってからは幽冥塾と呼ばれるようになる。
龍吏(りゅうり)
人の身で炎龍に仕える通訳官。炎龍が王都禁城に降臨した場合の臨時の役職。死者の言語である龍語を操るという理由から、必ず界人から選出される。
霊宝陣(れいほうじん)
炎龍の炎域を無効化できる結界。現在では失われた千形死霊術のひとつで、王都では予言院の本院に残るのみとされる。
◆『忘却城』第3回創元ファンタジイ新人賞受賞作

我、幽世の門を開き、
凍てつきし永久の忘却城より死霊を導く者
死者を蘇らせる術で発展した王国。
死霊術の祭典を前に、過去の癒えぬ傷を抱えた青年、
盲目の少女死霊術師、麗しき死者の剣士、
王族殺しの異民族の女らが、奇怪な陰謀に引きずり込まれる……
忘却城に眠る死者を呼び覚まし、蘇らせる術で発展した亀珈王国。過去の深い傷を抱えた青年儒艮(じゅごん)は、ある晩何者かに攫われ、光が一切入らない盲獄と呼ばれる牢で目を覚ます。そこに集められたのは、儒艮の他五人。彼らを集めたのは死霊術師の長、名付け師だった。名付け師は謎めいた自分の望みを叶えるように六人に命じ、叶えられた暁には褒美を与えると約束する。儒艮は三年に一度開かれる死霊術の祭典、幽冥祭(ゆうめいさい)で事件が起きると予測、それ阻止すべく動き出すことに……。第三回創元ファンタジイ新人賞佳作選出作。
《用語集より抜粋》
炎龍(えんりゅう)
神仙の霊魂をも喰らうという神獣。王国に数十頭しかいない。天と同一視され、王国人からは王家以上に崇拝されている。かつては千形族に加護を与えていたが、千形族が死霊術に傾倒しすぎたために彼らを見限り、黄金族を助勢したとされる。「彼の者、幽世の門を閉ざし、凍てつきし永久の忘却城にて死霊を見守る者」。
黄王家(おうおうけ)
五百年前、当時の支配者だった千形族を滅ぼし、現在の亀珈王国を建国した黄金族の一族。もとは地方軍閥の長にすぎなかったが、戦略と私軍を駆使して大陸を平定した。王は代々、黄王と名乗る。
黄龍大渓谷(おうりゅうだいけいこく)
王都を東西に走る大亀裂の総称。千五百年前、この地を巡って争う二体の人外王、賜鬼王と淀万王の激闘によって生まれたとされる。大渓谷へ投げ入れられた種からセンケイオオモクセイ亜種の大樹が生え、そこに王宮を築いたため、都の中心地に位置する。
亀珈王国(かめのかみかざりおうこく)
五百年前、黄金族の黄家が建国した王国。他国では幽冥の名で知られる。北の人外区をのぞく三方を海に囲まれており、天候のほとんどは雨か濃霧、雪。王国に住まう黄色人種を第一系人と総称する。
死霊術(しりょうじゅつ)
死霊術士が使う術の総称。四つの系統があり、葬送術、反魂術、退魔術、人外隷属術がある。このうち反魂術は、王家によって厳しく制限されている。反魂術には、死者の魄を呼び戻して肉体を使役する『送尸術』と、死者の魂を呼び戻して会話させる『降霊術』。さらに魂と魄どちらも呼び戻すことで生前と変わらない姿で蘇らせる『蘇生術』の三つがある。
死霊術士(しりょうじゅつし)
死霊術を生業とする術士の総称。市井に根付く死霊術士と、国家資格を取得した国家死霊術士がおり、王国の死霊術士の頂点に立つ者を名付け師と呼ぶ。「彼の者、幽世の門を開き、凍てつきし永久の忘却城より、死霊を導く者」。
彼の者、幽世の門を破り、
凍てつきし永久の忘却城より死霊を極めし者……
凍てつきし永久の忘却城より死霊を極めし者……
大鬼とは、ただの幽鬼ではなく、強力な死霊術師である名付け師をもってしても、かろうじて封じることはできても、退魔不可能と言われるほどの凶悪な大幽鬼。
剥州の地に封じられていた大鬼、鬼帝女が目覚めた疑いがあるとの報告が、名付け師の住む霊昇山にもたらされた。知らせをもたらしたのは、死者の代弁機関である、夢無鵡予言院からの使者。
民に甚大な被害を及ぼす前に、退魔するようにという要請だ。名付け師としても引き受けないわけにはいかないが、大鬼退治は、名付け師の力をもってしても命がけだ。現に過去には大鬼退治で命を落とした名付け師たちも少なくない。
そんななか、大鬼退治に名乗りをあげたのは、名付け師・縫の百人の御子(名付け師の養子で、力ある死霊術師たち)のなかで、まだ若く才はあるが、病弱な千魘神だった。目付役として彼に同行するのは、牢から放たれ霊昇山に身を寄せる王族殺しの大罪人、第七系人の女・曇龍。
一方、鬼帝女が封じられている剥州では、奇怪な現象が起き始めていた。
死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国を舞台に、生者と死者の運命が交錯するシリーズ第二弾。
《解説より》
先が読めない物語展開、想像力を刺激する設定。一読して思った。これは素晴らしい書き手が現れた、と。(妹尾ゆふ子)
《用語集より抜粋》
円鏡王(えんきょうおう)
かつて七帝大陸に存在したとされる巨大な蜂の人外王。雌雄同体。七帝帝国建国ごろ、帝国の始祖たちに自身の卵母を喰わせた。
仮封印(かりふういん)
大鬼の覚醒を遅らせる作用のある呪具。代々の名付け師が考案・作成する。
黒髪大戦(くろかみのおおいくさ)
五十年前、陰陽大陸の第一系人( 亀珈王国)と、東仙大陸にある隣国の第二系人との間でおこった大戦。三体の人外王に国土を追われた第二系人が、領土拡大のためはかった戦とされる。
五血族(ごけつぞく)
北砂でも最古の純血種とされる五つの血族。ヴィラ、ラヴィア、ノイトラ、シャリア、ティリアがある。
夢無鵡予言院(さんむよげんいん)
死者の代弁を司る国家機関。諱宮や。死霊術士しによって反魂された死者は、術を施した死霊術士が死した後、予言院に帰属することを義務付けられる。
夢無鵡(さんむ)
厳密には予言院の創設者たる三名を指すが、幽冥祭、もしくは名付け師によって蘇生術を施された死者全般をいう場合もある。
七帝(ななてい)
七帝帝国の最盛期、帝国を統治していた七人の女帝。賢帝として敬われている。
七帝大陸(ななていていこく)
陰陽大陸の南西にある巨大な大陸。第七系人の揺籃の地。
無(ぶ)
夢無鵡となる条件を満たさない死者たちの総称。平時は国営墓地の警備にあたり、有事の際は、臨時軍を組織する。
夢無(むむ)
夢無鵡を補佐する生者の集団。教育後、夢墨と呼ばれる毒墨で背に太白鸚鵡の刺青を入れられた者。皆鴉片常習者であるため、長生きしない。
夢面形(ゆめおもかた)
予言院の夢無鵡と呼ばれる死者だけが被る面。白珊瑚で作られている。中央に雄の太白鸚鵡の虹彩を模した黒ジェット玉があしらわれている。
霊錨(れいびょう)
蘇生術の際、死者の心臓近くに埋め込まれる石の棒。生前の記憶・信念を刻み込んだ呪具。