ファッションや外食にはあまりお金をかけず、住まいや旅行などの家族生活にお金を使う。貯金はできなくても、税金をたくさん払って、わが子を含め国じゅうの子供たちが同等の教育を受けられるようにする。税金はもちろん、スウェーデンが大量に受け入れている難民の生活援助にも使われていく。フルタイムで働いていてボランティア活動をする時間がとれなくても、社会貢献できている気がする。
 これが、わたしの見たスウェーデンのお金の使い方だ。

 こうやって分析してみると、スウェーデンも日本も一長一短である。スウェーデンは日本に比べるといろいろな場面で不便を感じるし、外食やショッピングもあまりしない地味な生活だ。スウェーデンに来て間もない日本人には「日本に帰りたい」と言う人がいるし、実際に帰ってしまった人も知っている。
 しかしもう少し長く暮らしてみると、スウェーデンのよさも見えてくる。わたし自身は「どちらがいいか」と尋ねられれば、風で医者にかかれなくても、確実に保育園に入れるほうがいい。地味な暮らしでもかまわないから、毎晩5時に家族でそろって家でごはんを食べたいと思う。移住して9年。カルチャーショックやホームシックが落ち着いた今は、本気でそう思うのだ。


【著者紹介】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。高校時代、交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の三人で東京からスウェーデンに移住。現在は翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師として活躍している。主な訳書にペーション『許されざる者』『見習い警官殺し』、ホーカン・ネッセル『悪意』、アンナ・カロリーナ『ヒヒは語らず』などがある。