ちょうどそのころ、日本の教育雑誌の仕事で、何人かのスウェーデン人ママを取材する機会があった。保育園のクラスメートのママではなかったが、人もうらやむような立派な仕事を持ち、いつも元気いっぱいで輝いていて、子供が2人とか3人いる素敵なママたちだ。
 取材テーマのひとつに〝スウェーデンではママ友との関係はどうなっているのか〟というものがあった。日本ではママ友との関係に悩んでいる人が多いらしい。子育ての相談や愚痴、夫の愚痴などを語り合い、助け合っているうちはいい。しかしグループ内での子供の出来や生活スタイルを比べ合い、嫉妬に苦しむママが増えているという。〝幸福度の高いスウェーデンでは、そのあたりにどう対処しているのか〟というのが取材の趣旨だった。
 ママたちを取材するうちに、いろいろなことが見えてきた。まず先に述べたように、現在のスウェーデン人の親というのは〝人と比べる〟ことを嫌悪している。特に子供同士を比べるというのは、不法行為に近い雰囲気だ。保育園でも学校でも、先生たちは子供のうち誰が優秀で誰がそうでないという上下ができてしまわないよう、分け隔てなく全員をほめるように心を砕いている。日本のようにお受験で子供が選別されたり、塾で成績順位表が配られるなど、絶対にありえないのだ。その理由はもちろん、小さいうちから優越感や劣等感を植えつけないためであり、それはいじめの防止にもつながっていく。子供たちは人と比べられることがないから、自分は自分でいいのだと思って育つことができる。
 親のほうもそうやって子供を育てているうちに、わが家とよその家庭を比べることがいかにバカバカしいことなのかが見えてくるのだろう。
 しかもスウェーデンでは私立公立にかかわらず学費が無料なため、どの小学校に通うことになっても、子供たちの家庭環境は幅広い。移民の子供たちがいるというだけでなく、スウェーデン人の親の職業だけとっても、ガテン系から医者までさまざまなのである。皆がそれぞれの幸せの形を追求しているわけで、「なぜうちは○○さんちみたいに毎年夏休みにハワイに行けないのかしら」という発想にはならない。