『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位を受賞したことで大ブレイクし、更に『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位を受賞し話題を呼んだ、注目の実力派作家・遠田潤子。
この度2020年4月に文庫化される『冬雷』は、第1回未来屋小説大賞を受賞し、第71回日本推理作家協会賞 〈長編および連作短編集部門〉の候補にも選ばれた、圧巻の長編ミステリです!
主人公は、大阪で鷹匠として働く青年・夏目代助。2016年11月、彼の元に昔住んでいた、因習が残る港町・魚ノ宮町(おのみやまち)から訃報が届きます。12年前に行方不明になった幼い義弟・翔一郎が、遺体で発見されたと。孤児だった代助は小学生の時、魚ノ宮町の名家・「冬雷閣」に住む千田家に、跡継ぎとして迎えられました。義理の両親といった初めての家族や、千田家と共に町を守る鷹櫛神社の巫女・真琴という恋人ができ、幸せに暮らしていました。しかし、義弟の失踪が原因で、真琴も家族も失い、町を出て行くことになってしまったのです。
翔一郎の葬儀に出るため、12年ぶりに町に戻った代助。彼は、町の人々やかつての家族、恋人からの冷たい仕打ちに耐えながら、事件の真相を探っていきますが……。
遠田作品の特徴といえば、濃密な人間ドラマ。過去の秘密に縛られることで起きる、恋人や、家族、友人間での愛憎を圧倒的な筆力で描ききっています。『冬雷』でも、その凄まじい本領を発揮。代助が対峙する事件の関係者たちは、根っからの悪人という訳ではありません。彼ら・彼女らは相手を思うがゆえに執着したり、裏切ったり、絶望を突きつけたりと、どこか哀しみもつきまとう激情を抱えています。そのうちのひとり、代助のかつての恋人・真琴が零す言葉、「……どちらを選んでも間違えた」の真意が判明した時、長年にわたる苦しみの深さに、胸が締め付けられます。
代助が、唯一の協力者にして悪友の龍と共に辿り着いた真相も、哀切極まるものでした。過去の呪縛によって起きた悲劇の果てに、クライマックスでは、あるカタルシスが起こります。そのドラマティックさは、他に類を見ない迫力があります。
そんな本書のカバーは、鷹櫛神社の鳥居から見える「冬雷閣」や、鷹を施した、引地渉さんの迫力あるコラージュイラストに、大岡喜直さんのクールなデザイン。ドラマティックな『冬雷』を、華やかに彩っています。
解説は千街晶之さん。「『八つ墓村』のような横溝正史作品をはじめとする、〈因習に縛られた日本の地方集落ミステリ〉の系譜に連なる傑作」として、本書を詳しく分析しています。また、文庫化にあたって加筆修正がされていますが、大きく異なるのは終章のラストシーン。過酷な運命に翻弄され続けた代助に、より救いと希望が訪れます。単行本で既に読んでいる方も、ぜひ見届けてほしいと思います。
単行本刊行時のスペシャルインタビュー、書店員さんからの絶賛コメントと合わせて、どうぞ本書をお楽しみください!