今はスペインやイタリアから輸入されてきた野菜が手に入るようになり、大人用にはおしゃれなサラダのレシピが充実しているが、子供は……結局いちばん食べてくれるのは、スティック状に切っただけの野菜だ。というのも、保育園の給食で出てくる「野菜」といえばこの切っただけの野菜なのである。ドレッシングもマヨネーズもかかっていない野菜スティックを食べ慣れているのだ。
うちの娘も、遊びに来るお友達も、野菜を食べるとしたらこの〝切っただけの野菜〟だ。キュウリやニンジンを切っただけ、ミニトマトを洗っただけ。茹でただけのブロッコリーやカリフラワーでもいい。ひと手間かけて調味料であえたり、がんばってドレッシングを手作りしても、子供には嫌がられるだけ。わたしも開き直って、夕食の野菜は洗って切るだけ。3種類もあれば上出来だ。まずはそれをテーブルに置けば、他の料理が仕上がるまでに、お腹を空かせた子供は勝手にぱくぱく食べている。
「スウェーデンではみんな共働きでえらいな。ママたちは仕事も家事も早くて能率のよいスーパーウーマンばかりなのだろう」と思われている方がいたら、それは幻想だ。
スウェーデンで暮らしてみて、共働きなのに毎晩何品も作ろうとすること自体を考え直したほうがいいのだと思い知らされた。わたしたちの世代は、まだコンビニやデリがなかった時代に専業主婦の母親の手料理を食べて育った。学校で教えられた1日30品目という神話にも縛られてきた。
わたしも日本では「自分が働いているせいで子供の栄養が偏ってはかわいそうだ」と、夕食作りをがんばった。それでも「いや、こんな料理じゃお母さんとして失格だ」と自己嫌悪に陥ることがしばしばあった。それが今ではすっかりハードルを下げ、「むしろこの街で子供にいちばんバラエティーのある料理を食べさせているママかも」とたかをくくっているほどである。日本のパパママは、もっと食事作りに手を抜いていいと思うし、それでも世界規模で見れば毎日すごいご馳走を作っているのだと自分をほめてあげてほしい。
【著者紹介】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。高校時代、交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の三人で東京からスウェーデンに移住。現在は翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師として活躍している。主な訳書にペーション『許されざる者』『見習い警官殺し』、ホーカン・ネッセル『悪意』、アンナ・カロリーナ『ヒヒは語らず』などがある。
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