娘が1歳11ヶ月のとき、理想の家族環境を求めて東京からスウェーデンへ家族3人で移住した翻訳家の久山葉子さん。
無理なく共働きで子育てできるとされる国での移住・子育て・日常生活を綴った、楽しく気軽に読めるエッセイ『スウェーデンの保育園に待機児童はいない――移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』が好評発売中です。
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今回はその『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』から、久山さんが特に皆さんにお伝えしたい部分を抜粋して、5日連続で特別公開します。
第3回は、スウェーデン式子育てについてです。スウェーデンの子育てで最も重要視されること、そして絶対に許されないこととは?
【スウェーデン式子育てに思うこと】
日本でもスウェーデンでも、子供に愛情を注いで育てるという意味では子育てにそれほど変わりはないと思う。しかしスウェーデンの一般的な子育てを見ていて、日本と大きくちがうなと思う点がいくつかある。
【子供は遊ぶのが仕事】
まず衝撃を受けたのは、子供の〝お勉強〟についての考え方だ。
保育園でも年齢が上がるにつれて、遊びの中に積極的に数や文字を取り入れていく。そのあたりは日本でも同じだ。ただ大きくちがうのは、家庭での〝勉強〟に対する考え方だ。今のスウェーデンでは、子供の大切な仕事は〝思う存分遊ぶこと〟。それに尽きる。とりわけ身体を動かすことは、長期的な健康や脳の発達にも影響してくるので大切だとされている。つまり、〝保育園児に勉強をさせるなんてもってのほか。勉強は小学校に上がってからで充分〟という考え方なのだ。特に詰め込み学習に関しては、言語道断とばかりに拒否反応を起こす親が多い。
保育園のあいだは親が子供にお勉強的なことをやらせることはない。子供のほうが自分から文字や綴りに興味を示せば教えてあげることはあるだろうが、例えばフラッシュカードでアルファベットを覚えさせたり、九九の表を暗記させるようなことはさせない。小さいうちに無理に学習させることで、〝勉強ってつまらないもの〟〝苦しいもの〟というイメージを植えつけてしまったら一巻の終わり、と考えている親が多いのだ。
街を見回しても、お勉強系の習い事は見当たらない。英語教室さえない。習い事といえば、サッカー、フィギュアスケート、アイスホッケー、スイミング、ダンスなど身体を動かすものか、楽器や合唱などの音楽系だ。わが家では、娘にひらがなを教えなくてはと一時期日本から教材を取り寄せたりもしていたが、傍目(はため)にはそれが異様に映ったようだ。「今どき小さい子供に詰め込み学習をさせるなんて」と。気づかないうちに、わたしは浮いた親になってしまっていた。
それではスウェーデンの子供たちは、代わりにどんなことを学んでいるのだろうか。わたしが思うに、それは思う存分遊ぶことから得られる〝クリエイティブな発想〟だ。それは今の大人を見ていても感じる。子供のころから工作や手芸をたくさんしているからか、手先の器用な人、センスのいい人が多い。小さいころからレゴで遊んでいるせいか、イケアの家具を組み立てるのはもちろん、家を大がかりに改装したり建て増したりといったことまで自分でやってしまう。気に入った商品を買って満足するのではなく、自分だけの世界を創り上げることに喜びを感じる大人が多いように思う。
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