連続殺人の容疑者とされた元軍人の青年。
真犯人か否か、関係者たちの推理は揺れ動く。
——結末でがらりと姿を変える、それぞれの「真実」。

〈現代英国ミステリの女王〉ミネット・ウォルターズの『カメレオンの影』がいよいよ刊行! 圧巻の600ページというボリュームたっぷりの長編ですが、そのぶん読みごたえはバッチリ、「これぞウォルターズ!」とご満足いただけること間違いなしの傑作ミステリです。


とはいえ、そもそもミネット・ウォルターズ作品を未読の方もいると思いますので、ここで著者についてご紹介いたします。ミネット・ウォルターズはイギリス生まれの女性作家です。幼少期から頭抜けた読書家であり、雑誌編集者を経て小説家としてデビューします。1992年に刊行したミステリ第1作『氷の家』は英国推理作家協会(CWA)の最優秀新人賞を獲得します。続いて第2作『女彫刻家』でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)のエドガー賞長篇賞とマカヴィティ賞長篇賞を受賞。1994年に『鉄の枷』で、2003年に『病める狐』でCWAゴールド・ダガー賞を受賞、と数々の素晴らしいミステリをこの世に生み出してきた〈現代英国ミステリの女王〉です。

日本での評価も非常に高く、『女彫刻家』「週刊文春1995年ミステリーベスト10/海外部門」「このミステリーがすごい! 1996年版海外編ベスト」でどちらも1位に輝き、『遮断地区』『ミステリが読みたい!2014年版海外編』の1位に輝きました。今まで長編10作、中編集1作が創元推理文庫で刊行されています。シリーズ作品ではなく、すべて独立したミステリです。ウォルターズ作品を初めて読んでみたいと思った方には、デビュー作の『氷の家』か、中編二作を合本した『養鶏場の殺人/火口箱』が読みやすいと思いますので、強くおすすめいたします。あとは現在の担当編集者である私(東京創元社S)の好みとしては、何と言っても『遮断地区』!! 翻訳原稿をいただいて、あまりの面白さに寝ることもできず一気読みしたものすごい作品でした。圧巻の心理描写と謎解きの妙味を堪能できる作品ばかりですので、「とにかくすごい作品が読みたい」「没頭して読めるものが欲しい」という方、ぜひお手にとっていただけますと嬉しいです。

そして、4月10日刊行の『カメレオンの影』はこんなお話です。まずはあらすじを……。

アクランド英国軍中尉はイラクに派遣され、爆弾で頭部と顔面に重傷を負った。病院で昏睡(こんすい)から目覚めた彼は暴力をふるい、極端な女性嫌悪を示して周囲を戸惑わせる。除隊した彼はロンドンに住むが、ある夜警察に拘束されてしまう。近隣では、軍歴のある一人暮らしの男が自宅で殴殺される事件が続発しており、アクランドは尋問されるが……。巧みな心理描写で紡(つむ)がれる傑作サスペンス!

本書の冒頭で、新聞記事などの形で、3人の一人暮らしの男性が自宅で殴殺されるという事件が発生していたことがわかります。それと同時に、イラクで爆撃によって頭部と顔面を負傷し、片目を失った青年チャールズ・アクランドについて描かれていきます。彼は昏睡から目覚めて以来、痛み止めを拒否したり、女性の看護師を避けたり、元婚約者の女性に暴力を振るおうとするなど、極端な行動をとります。彼はいったいどういう人間なのか。読者は不安や不信を覚えながら読み進めることでしょう。そしてアクランドは退院後、移り住んだロンドンである事件を起こし、警察に拘束されてしまいます。アクランドを巡って揺れ動く関係者たちの思惑。そして「真実」とは——。巧みな心理描写はまさにウォルターズの真骨頂。登場人物の誰も信用できないと思わされ、翻弄されること間違いなしです。

この作品と、著者の魅力を余すところなく語ってくださった三橋暁さんの素晴らしい解説も必読です!! 最初から最後までどっぷり浸れる本書、じっくりお楽しみいただけますと幸いです。

(東京創元社S)


氷の家 (創元推理文庫)
ミネット ウォルターズ
東京創元社
1999-05-21



遮断地区 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ
東京創元社
2013-02-28



養鶏場の殺人/火口箱 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ
東京創元社
2014-03-12