「21世紀の『そして誰もいなくなった』」として好評を博した第26回鮎川哲也賞受賞作、市川憂人さん『ジェリーフィッシュは凍らない』。現実世界と良く似たパラレルワールド(1983年の、アメリカに似たU国)を舞台に、特殊技術絡みの連続殺人の謎を解く本格ミステリです。

そのジェリーフィッシュ事件の解決に奔走したのが、探偵役にあたるフラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣。彼らが活躍するシリーズ第2弾、『ブルーローズは眠らない』がこの度待望の文庫化となりました!


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両親の虐待に耐えかね逃亡した少年エリックは、遺伝子研究を行うテニエル博士の一家に保護されます。彼は助手として暮らし始めますが、屋敷内に潜む「実験体七十二号」の不気味な影に怯えていました。

一方、ジェリーフィッシュ事件後、閑職に回されたマリアと漣は、不可能と言われた青いバラを同時期に作出したという、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査することに。ところが両者と面談したのち、施錠されバラの蔓が壁と窓を覆った密室状態の温室の中で、切断された首が見つかり……!?
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博士一家に保護された少年・エリックの生活を描く「プロトタイプ」のパートの一方で、「幻の青いバラ」という魅力的なモチーフをめぐり、不可解な連続殺人が起こる様子を「ブルーローズ」のパートで描いています。最も奇妙な事件は、「バラの蔓で覆われた密室の温室に、縛られた生存者と切断された首が残されていた謎」。犯人は密室からどうやって脱出したのか? なぜ被害者の遺体を切断し、首だけを密室に残したのか? なぜわざわざ、生存者を縛った上で放置したのか? 

一見、支離滅裂に映る犯人の行動を、丹念な捜査と緻密なロジックを武器に、マリアたちは推理していきます。終盤で、「プロトタイプ」と「ブルーローズ」のパートが繋がり、事件の構図が露わになった時、驚愕の真相が明かされます。本書の本格ミステリとしての面白さは、解説で福井健太さんが丁寧に分析しています。

また、捜査シーンや圧巻の解決編は読み応えがありますが、普段はずぼらだけれど切れ者のマリアと、沈着冷静で皮肉屋の漣、ふたりの軽妙なやり取りにはクスッとなります。また、カバーを手掛けるのはシリーズではお馴染みの、装画・影山徹さん、装幀・鈴木久美さんのおふたり。燃える青バラと、温室が描かれた美麗なカバーは必見です。

そんな『ブルーローズは眠らない』を、どうぞお楽しみに!




グラスバードは還らない
市川 憂人
東京創元社
2018-09-12