好評発売中の『臨床探偵と消えた脳病変』。
去る2月19日に著者の浅ノ宮遼さんが、ご自身のTwitterに各編の自作解説をしてくださいました。そちらを、各編の紹介とあわせてまとめました。ぜひ参考になさってくださいませ。
【血の行方】
踵骨骨折で入院した男性患者。骨折の原因は、貧血で意識を失ったためだという。以前自己瀉血していた患者だが、まさか――
謎解きのプロットは割と簡単にできたものの、巻頭である本作で探偵役の西丸をどう紹介しようかと頭を悩ませた一編です。あまり表に出てこないタイプの探偵なので、どこで登場させ、どう描いたら印象付けられるのか。その辺り、非常に苦労した記憶があります。
【幻覚パズル】
友人を見舞いに来た際に、何者かに襲われ怪我を負った少年。目撃者は二人。友人とその祖母。認知症の目撃者の証言に信憑性はあるのか?
新人賞受賞後、最初に書いた一編。初稿に対する編集者さんの反応が芳しくなく、それから構成を変え、視点人物を変更し……結局5パターンぐらい書きましたが、最終的にはベストな形にできたのではないかと思っています。いわゆる「多重解決もの」で、短編ではあまり例のない五重解決にチャレンジしました。医療の知識がなくても真相に到達できるタイプの作品なので、初読の方は“西丸の登場場面”のところで一度手を止めて考えていただくのも面白いかもしれません。ただし、難易度はかなり高いです。
【消えた脳病変】
脳の病変が消えた女性患者。その消失の理由を推理せよ。臨床探偵・西丸豊が学生時代出合った不可思議な症例。第11回ミステリーズ!新人賞受賞作。
書き上げた当初はあまり手応えを感じられず、目標としていたミステリーズ!新人賞にこの作品で勝負するべきなのか迷いました。そのため、書き上げてすぐ別の作品に取りかかったほどです。しかし公募ガイドの作品添削講座に申し込んだところ講師の野崎六助先生から「私なら最終選考に残します」との評価をいただき、応募することに決めました。真相に至る手掛かりは充分に配置したつもりなので、ぜひ“完全解答”にチャレンジしていただければと思います。
【開眼】
呼吸困難を起こして救急センターに運ばれた男性患者。いくつかの原因を検証するものの、突き止められない若手医師は――
以前にもツイートしましたが、一番さらっと書けた一編です。プロット作成は10分くらいで、執筆中も構成の直しはありませんでした。作中における診断過程は実際の症例報告(医学論文)を参考にしたもので、そこでは漢方医の先生が患者の“ある所見”をきっかけに真の病を見抜いた場面が記されているのですが、その姿はまさに臨床探偵でした。
【片翼の折鶴】
躁うつ病の症状で救急搬送された妻を殺さなければならない。その夫の真意に西丸医師がとった行動とは?
4つ前のツイートにある「消えた脳病変」のすぐ後に書いた作品が、これです。「消えた~」が駄目なら来年はこの作品で……と考えていたので、もしそうなっていたら「死期の迫った人間を殺すのはなぜか?」のテーマで「監獄舎の殺人」(※)とモロかぶりになるところでした。倒叙ものは初めてでしたが、五編中一番楽しく書けたのが本作ですね。