〈名作ミステリ新訳プロジェクト〉2020年3月の新刊は、チャンドラー、アリンガム他/小森収編/猪俣美江子他訳の豪華アンソロジー『短編ミステリの二百年2』です。

2019年10月に刊行した第1巻『短編ミステリの二百年1』はおかげさまで発売当初から好評をいただき、たくさんの書評が新聞・雑誌に掲載されて、早々に重版が決定しました。その続きとなる本書は1920年代から50年代にかけて書かれた、11作家の11短編と編者の評論(こちらも第1巻の続きから)を収録してお届けします。

本書の成り立ちを改めて説明しますと、書評家の小森収氏がこの〈Webミステリーズ!〉で現在も連載中の評論「短編ミステリの二百年」をベースに、純粋に面白い作品から歴史上重要な位置を占める作品まで、さまざまな短編を集めたアンソロジーです。第2巻となる本書も、『世界推理短編傑作集』全5巻と作品の重複はいっさいありません。そして11の短編、すべてが新訳となります。


では改めて、第2巻の収録作品を公開いたします。

「挑戦」バッド・シュールバーグ/門野集訳
「プライドの問題」クリストファー・ラ・ファージ/門野集訳
「チャーリー」ラッセル・マロニー/直良和美訳
「クッフィニャル島の略奪」ダシール・ハメット/門野集訳
「ミストラル」ラウール・ホイットフィールド/白須清美訳
「待っている」レイモンド・チャンドラー/深町眞理子訳
「死のストライキ」フランク・グルーバー/白須清美訳
「探偵が多すぎる」レックス・スタウト/直良和美訳
「真紅の文字」マージェリー・アリンガム/猪俣美江子訳
「闇の一撃」エドマンド・クリスピン/藤村裕美訳
「二重像」ロイ・ヴィカーズ/藤村裕美訳
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「短編ミステリの二百年」小森収
 第一章 雑誌の時代に(承前)
  5 都会小説に寄り道――ジョン・オハラ、バッド・シュールバーグ
  6 ニューヨーカーの果たした役割
  7 シャーリイ・ジャクスン――ニューヨーカーの生んだ鬼っ子
  8 警察小説の萌芽――トマス・ウォルシュのコリアーズ時代
 第二章 ダシール・ハメットとブラック・マスクの混沌
  1 ダイムノヴェルからパルプマガジンへ
  2 先駆者ハメット
  3 ブラック・マスクの混沌
  4 長編作家への道
  5 追随者たち1――ラウール・ホイットフィールド、ホレス・マッコイ
  6 追随者たち2――E・S・ガードナー、フレデリック・ネベル
  7 フィリップ・マーロウ登場
  8 レイモンド・チャンドラーの到達したところ
  9 パルプマガジン出身の成功例――フランク・グルーバー
  10 追随者たち3――J・M・ケイン、ブレット・ハリデイ
 第三章 英米ディテクティヴストーリイの展開
  1 小説家エラリイ・クイーンの冒険
  2 編集者エラリイ・クイーンの冒険
  3 ディテクティヴストーリイの曲がり角――J・D・カーを例に
  4 アメリカン・ディテクティヴストーリイの展開1――レックス・スタウトの場合
  5 アメリカン・ディテクティヴストーリイの展開2――クレイグ・ライスの場合
  6 もうひとりのミステリの女王
  7 ブリティッシュ・ディテクティヴストーリイの停滞
  8 ロイ・ヴィカーズと倒叙ミステリの変遷

第2巻収録作品は都会小説、ハードボイルド/私立探偵小説、謎解きものなどさまざま。名無しのオプ、人間百科事典オリヴァー・クエイド、ネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィン、アルバート・キャンピオン氏、ジャーヴァス・フェン教授と、シリーズキャラクターものの短編が約半数を占めるのも特徴となりました。何編か、内容をかいつまんで紹介しましょう。

まずはレイモンド・チャンドラー「待っている」。一軒のホテルを舞台にしたハードボイルドの名編を、深町眞理子先生による新訳でお送りします。これが日本では通算6種類目の翻訳となります。研ぎ澄まされた文章をじっくりご堪能ください。

マージェリー・アリンガム「真紅の文字」はアルバート・キャンピオン氏もの(創元推理文庫の短編集3冊には未収録)。ある空き家に残された謎のメッセージをめぐり、意外な展開が待ち受ける逸品です。翻訳は創元推理文庫のアリンガム作品といえばもちろんこの方、猪俣美江子先生。

ロイ・ヴィカーズ「二重像」は倒叙ミステリの連作〈迷宮課〉シリーズで知られる著者のEQMMコンテスト第一席受賞作で、ちょっと類をみない奇妙な容疑者が出てくる殺人事件を扱っています。

巻末には、〈Webミステリーズ!〉の連載を大幅改稿した評論を収録。今回改めて読んで特に興味深かったのは、パルプマガジン〈ブラック・マスク〉を軸に、ダシール・ハメットとレイモンド・チャンドラーについて分析した第二章。第1巻同様、索引つきです(本アンソロジー収録作品、編者のおすすめ作品はひと目でわかる目印つき!)

この『短編ミステリの二百年2』は3月19日発売となります。そして次巻『短編ミステリの二百年3』は2020年夏刊行予定です。1、2巻をお手元に置きつつ、どうぞ期待してお待ちください!

短編ミステリの二百年1 (創元推理文庫)
モーム、フォークナーほか
東京創元社
2019-10-24


短編ミステリの二百年2 (創元推理文庫)
チャンドラー、アリンガム他
東京創元社
2020-03-19