『ミステリーズ!』の人気連載、「私の一冊」。東京創元社の文庫作品から、著者が思い入れのある一冊について語るブックエッセイです。
 今回は、『ジェリーフィッシュは凍らない』文庫版が好評を博し、3月に〈マリア&漣〉シリーズ第2弾、『ブルーローズは眠らない』文庫刊行を控えている、市川憂人さんのエッセイを再掲載します(『ミステリーズ!vol.85』2017年10月号より)。

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「私の一冊」
佐々木丸美『雪の断章』
市川憂人
ロマンスと推理の美しき融合

 私がまだ一介の同人(どうじん)物書きだった頃、青崎有吾先生の前で本作を熱く語ったところ後に新聞で取り上げていただいたという、色々な意味で思い出深い名作である。

 孤児の少女が青年と出逢い、想いを育(はぐく)んでいく十数年間のラブロマンスなのだが、瑞々(みずみず)しい描写と濃密なストーリー、そして謎解きの本格度合いが尋常でない。

 虐(いじ)めに遭い、青年に救われ、自分を虐(しいた)げた姉妹と再会し、かと思ったら片方が殺害され疑いの目を向けられて……と、ページをめくるたびに次々と物語が展開する。 

 しかもここまでは序盤。本作の目玉のひとつは、ラブロマンス主体でありながら相当に「ガチ」な推理が繰り広げられ、意外な(!)犯人が示されてしまう点にある。この推理シーンは中盤のクライマックスであり、謎を解いてしまった少女の以後の苦悩へと繫(つな)がっていく。

 前半以上に山あり谷ありの後半を経て最後、犯人の語る「殺人とはいったい何か」以下の台詞(せりふ)も胸を抉(えぐ)る。

 一編の確固たる謎解きを、最上級のストーリーに織り込んだ傑作である。







グラスバードは還らない
市川 憂人
東京創元社
2018-09-12