2016年に講談社ノベルスの一冊として刊行された小島正樹『ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨』が大幅改稿され、タイトルを『ブラッド・ブレイン1 闇探偵の降臨』に改めて文庫化(講談社タイガ 720円+税)。さらに書き下ろし『ブラッド・ブレイン2 闇探偵の暗躍』『ブラッド・ブレイン3 闇探偵の旋律』(ともに講談社タイガ 780円+税)を加え、六月、七月、八月と三ヵ月連続で刊行された。
 東京湾に浮かぶ人工島に建てられた「脳科学医療刑務所」。凶悪犯罪者たちの脳を調べるための研究施設兼監獄であるここには、警察官五人を殺した罪で確定死刑囚となるも、その天才的な頭脳で独房にいながら難事件を解決する眉目秀麗(びもくしゅうれい)の囚人“闇探偵”こと月澤凌士が収監されていた。

 警視庁捜査一課の刑事――百成完(ももなりかん)が月澤のもとに持ち込んだ不可解な謎を起点に、恐るべき犯罪者の策略と正体が明かされる1。脳科学医療刑務所で囚人の毒殺事件が発生し、さらに所長の早坂までもが撲殺され、月澤と百成が真相究明に挑む2。非常事態プログラムが発動した脳科学医療刑務所で繰り広げられる死のゲーム、そしてついに月澤の秘められた過去が描かれる3。

 現場に残された血文字の謎、獄中の密室、犯罪者たちの駆け引きといった要素も読みどころだが、全三巻を通じて最も際立つのは、やはり月澤のダークヒーローとしての魅力だ。奇想あふれる初期の本格ミステリからはまったく感じられなかったが、〈硝子(ガラス)の探偵〉シリーズや『モノクローム・レクイエム』あたりから滲み出ていたハードボイルドや冒険活劇のテイストが、この三部作でついに全開になり、よりいっそう作風の幅が広がった印象を受ける。

“監獄”が舞台の作品をもうひとつ。

 沢村浩輔『時喰(じくう)監獄』(KADOKAWA 1600円+税)は、北海道の奥地に建てられ、収監されたら二度と出て来ることができないことから“黒氷室”の異名を持つ明治時代の監獄から幕が上がる。


 三度目の脱獄を目論む赤柿、吹雪のなか塀の上で赤柿を待ち構えている謎の男、新たな収監者の北浦、そして帝都で私立探偵をしているという御鷹といった人物が登場し、さてどんなプリズン・ミステリなのかと読み進めていくと、びっくり仰天! 帯に記された“九〇ページで世界はひっくり返る”という言葉どおりの驚くべきことが読み手を虎視眈々(こしたんたん)と待ち構えているのだ(ヒントはタイトルの“時喰”)。

 沢村浩輔といえば、デビュー作『夜の床屋』からして、読者を予想もしなかったとんでもない地点へ連れて行く内容だったが、衝撃度では本作も負けてはいない。前半の特大サプライズ以降も、まったく先を読ませない読者を翻弄させるストーリーが続く。読了後、読んだ者同士で猛烈に語り合いたくなること請け合いなので、筆頭でご紹介した『medium 霊媒探偵 城塚翡翆』とあわせてお愉しみいただくのも一興かと。よくぞこんなことを考えついたものだと、感嘆せずにはいられない作品だ。