なにもかもがみるみる覆(くつがえ)されていく、まさに華麗なマジックを観(み)ているような、鮮烈な驚きと見事な謎解き。相沢沙呼『medium(メディウム) 霊媒探偵 城塚翡翆(じょうづかひすい)』(講談社 1700円+税)は、マジックの実演でも定評のある著者らしい、読み終えるや盛大な拍手を送りたくなる作品だ。


 優れた推理力を発揮し、難事件を解決に導いた経験も持つミステリ作家――香月史郎は、大学時代の後輩――倉持結花から、これから霊能力者に会いに行くので同席して欲しいと頼まれる。なんでも、寝ていると傍(かたわ)らに女が現れて泣くので視(み)てもらうのだという。高級マンションの一室に赴いた香月と結花は、そこで人形めいた美貌の若き霊媒師――城塚翡翆と出会う。後日、改めて結花の部屋に集まることになり、香月と翡翆が向かうと、そこには何者かに殺害された結花の死体が横たわっていた。

 翡翆の霊能力が解決の糸口となったこの事件を皮切りに、香月と翡翆は〈水鏡荘〉と呼ばれる作家の別荘で起きた殺人、女子高生連続絞殺事件を手掛けることになる。いっぽう世間では若い女性ばかりを狙った一切証拠を残さない殺人鬼の存在が騒がれており、ついにその魔の手は翡翆にも……。

 翡翆の霊媒師としての能力は、自由に死者とコンタクトできるわけではなく、香月や翡翆本人も気づいていない能力の限界や法則性があり、それらを探りながら二人三脚で事件の真相に迫っていくことになる。

 ライトなテイストで読ませる完成度の高い連作形式の本格ミステリだが、ある程度ミステリを読み慣れた読者なら、途中で物語の全容に関して予想がついてしまうかもしれない。ところが本作の真骨頂は、ここからいよいよ華開く。見抜いたと思ったその優越感は粉々に打ち砕かれ、大げさではなく度肝を抜かれることだろう。

 帯に“すべてが、伏線。”と記されているとおり、それまで読み進め、頭に描いてきた物語像が、入念なロジックによってみるみる塗り替えられていく快感と興奮は、年間ベスト級どころか数年に一度レベルといっても過言ではない。しかもすべてが塗り替えられたあとに、ある箇所だけをそっと塗り直し、キャラクターへの愛着を増す演出も、じつに心憎い。第十九回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『午前零時のサンドリヨン』から十年。節目を迎えた著者の新たな代表作の誕生だ。

 井上悠宇『誰も死なないミステリーを君に2』(ハヤカワ文庫JA 640円+税)は、好評を博した青春ミステリ待望の続編。
 相手を見れば近々寿命以外で死ぬ運命にあるかがわかる異能の持ち主――志緒と、彼女が見た死の予兆を回避するため手を貸す大学生――佐藤。ふたりは今回、志緒の友人で、幼少期に“神隠し”にあった過去を持つ獅加観(しかがみ)飛鳥に浮かんだ“死線”を消し去るべく行動を開始する。

 飛鳥には十億円ともいわれる遺産相続の話が持ち上がっており、三人は獅加観家の一族が待つ飛鳥の故郷へと向かう。するとそこには、狐の面を被った医者を筆頭に、奇矯な人物たちが集まっていた……。

 前作では“死線”の浮かんだ四人の人間を護(まも)るため、瀬戸内海の無人島に“安全なクローズド・サークル”を作り出し、ミステリとしてはとてもつまらないけれど、登場人物全員が救われる“誰も死なないミステリー”を目指したが、本作では『犬神家の一族』をはじめとする横溝正史オマージュたっぷりな舞台で奮闘することに。

 物語が進行するにつれ、飛鳥以外の関係者にも“死線”が浮かび出し、なにかアクションが起こるたびにレベルが変化する予測不能度、死を回避する難易度もアップ。ついに佐藤も万策尽きてしまうのか――というスリリングな展開にページをめくる手が止まらなくなる。探偵役が謎を解くだけではなく、場の流れを操作して理想的結末へ着地させようとする試みも効果的に描かれ、単なる横溝的懐古趣味に留まらない、前作に勝るとも劣らない出来栄えだ。