これは2014年に刊行した『ヴァイオリン職人の探求と推理』『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』の続編となります。イタリアのクレモナに住む名ヴァイオリン職人のジャンニが、息子のような友人の刑事アントニオとともに楽器にまつわる謎や殺人事件に挑むミステリです。イギリス本国では2冊しか刊行されていなかったのですが、日本の読者のみなさんから何度も「続きが読みたい」というお言葉をいただいておりまして、このたびなんと5年ぶりに日本オリジナル最新作をお届けできることになりました。
さて、『ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器』はこんなお話です。
ヴァイオリン職人のジャンニはが講師を務めるヴァイオリン製作学校で、かつての教え子であるノルウェー人のリカルドが講演を行ったが、その夜、殺害されてしまう。そして彼が持っていた楽器、ハルダンゲル・フィドルが消えていた。犯人はなぜ、さしたる値打ちもない楽器を奪ったのか? ジャンニは葬儀のためノルウェーへと旅立つが、新たな殺人が……。
本作では、なんとジャンニたちが殺人事件と楽器の謎を追ってノルウェーへ旅立ちます! このシリーズはヴァイオリンや楽器をめぐる蘊蓄を読むのが楽しいのですが、北欧の音楽や、観光名所についても詳しく知ることができてすごく面白いです。そしてノルウェーではレストランの値段が高くて食事に困ってしまう、などの旅行あるある話にもニヤリとしてしまいます。編集作業中、実在の観光名所をインターネットで調べては「行きたい~」とつぶやいておりました。とにかく作中に出てくる音楽を聴いてみたくなりますし、旅行したくなるミステリです! あとおいしいものも食べたい!!
今作の目玉となるのはハルダンゲル・フィドルという楽器です! これは別名ハーディングフェーレ(hardanger fiddle/hardingfele)とも呼ばれており、ノルウェー西部ハルダンゲル地方が発祥の弦楽器です。外見はヴァイオリンとよく似ており、楽器の胴体やネックなどに華やかな装飾がほどこされているのが特徴です。真珠母の象嵌(ぞうがん)や彫刻なども見応えがあります。そして指板の下に「共鳴弦」が4本か5本張られており、演奏すると多彩なハーモニーが生まれます。
このハルダンゲル・フィドルをぜひ本書のカバーに描いていただきたいと思い、イラストレーターの伊藤彰剛さんにお願いしました。とはいえ珍しい楽器ですし、インターネットで見られる写真だけでは、細部がどうなっているのかよくわからない……ということで、代官山のヴァイオリン専門店〈ミュージックプラザ〉さんにお邪魔して、特別に写真を撮らせていただきました!
細かい装飾が綺麗です!! 植物の感じが、どことなく北欧っぽい気がします。大きさはヴァイオリンとほぼ同じでした。さすがに鳴らしてみることはできなかったのでどんな音色なのかはわからなかったのですが、YouTubeなどには演奏動画がたくさん上げられていますので、ぜひ聴いてみてください!
伊藤彰剛さんに素晴らしい装画を描いていただき、デザイナーの鈴木久美さんに美しく上品な装幀に仕上げていただきました。カバーデザインが出来上がったときに、「シリーズの続きが刊行できるんだなぁ」という実感が強くなり、とても感動しました。書店さんで3冊並んだところを見るのが今から楽しみです!
『ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器』は11月20日刊行です。この作品単体でも読めますが、ぜひシリーズ1作目『ヴァイオリン職人の探求と推理』から手に取っていただき、楽器をめぐるめくるめく謎の世界に浸っていただけますと幸いです。
(東京創元社S)