アニメーション作品『ゼーガペイン』『ゼーガペインADP』で守凪了子役をつとめました。
そのわたしにとって、守凪了子も『ゼーガペイン』も、自分自身の人生と深く結びつきすぎていて、客観的に語ることが難しいかもしれません。
あのとき──二〇〇六年、高校生のわたしは高校生の了子を演じました。わたし自身も高校生ながらに向き合わなければいけない問題や悩みがたくさんあるなかで、了子といっしょに濃密な時間を過ごしました。あの時間があったからこそ、いまがあるんだと思っています。
そのときの大人のスタッフの皆さんは、少年のような気持ちでとりくんでいました。ほんとうに『ゼーガペイン』が好きで、ずっとつくっていたいというぐらいのすごい熱量に包まれていました。「お仕事をするというのはこういうことなんだ」と肌で感じた現場でした。
わたしはその前に一度、中学二年生のときに『ラストエグザイル』で声優デビューしたのですが、その後しばらく何もなく、『ゼーガペイン』で役をいただいたときも、ほとんど初心者でした。周囲の先輩声優に、いろいろなアドバイスをいただいたり、ごはんに連れていってもらったりと面倒を見ていただくばかりでしたが、素敵な現場にいさせていただいて、とてもありがたい時間を過ごしました。
当時のわたしは演技に何の自信もなく、監督が決めてくださったこととはいえ、自分でもすごく棒読みだという自覚がありました。あのころは自分の声も好きではなかったし、どうして自分が担当できるのかもよくわからないままで演じていました。
そういう状態で、わたしは高校時代の最後の半年間を『ゼーガペイン』といっしょに過ごしました。
それは守凪了子の百四十九日間と重なっています。
さて、本書『エンタングル:ガール』は、二〇〇六年のTVアニメ『ゼーガペイン』から十三年ぶり、二〇一六年に劇場公開された『ゼーガペインADP』から三年ぶりのスピンオフ小説ですが、まったく色褪せない世界観が再現されています。
これまでの作品も、もちろんこの小説も、「信念を持って生きるとはどういうことか」ということを描いていて、作品に触れるたびにいろいろ考えさせられます。
本書では「ものづくり」がテーマになっています。それも映画制作なので、とても共感できました。
声優も、監督が目指すものを表現する仕事です。そのときに、監督やスタッフの熱意を共有するのと、気持ちを介さないままとでは、まったく違うものになるのではないかと思います。ですからいつも、ちゃんと心を動かしながら仕事をしたいと考えています。それがわたしの「信念」です。
作中では、了子が高校の映研で監督をするところが楽しく書かれていますが、高校時代のわたしだったら、こんなふうに考えたり調べたりできただろうかと思いながら読みました。彼女には、意識してはいないかもしれないけど、いろいろな人を動かしていくところがあります。真面目さ、まっすぐさ、頑張る姿勢を高校生にしてすでに持っているのはすごいと思います。
また、本書の重要登場人物に河能先輩がいます。彼は最初のTVシリーズでは名前が出てくるだけで、『ゼーガペインADP』では了子と会話します。そのときは、「了子は河能先輩のことをちょっと好きなのかな」と思って演じたのですが、本書を読むと「わりとがっつり好きだったんだ」とわかって新鮮でした。くらべてみると面白いと思います。
わたしも中学時代に、話をしたこともないのに好きだった先輩がいて、下校のタイミングを合わせて後ろをついていったりしました。ですから了子の気持ちはとてもよくわかります。幼なじみの京との繋がりとはまったく違う、憧れのような気持ち。高校時代にこういうミステリアスな先輩がいたら、たしかに気になって好きになっていたかもしれません。
そのほかに、この小説オリジナルの登場人物もいます。全員とても自然に馴染んでいて、最初のTVシリーズから出演していたような気さえしました。とくに千帆と天音の関係性はとても気になります。こういうかたちの恋愛感情があるんだなと、すごくいろいろと想像をしてしまいました。
新キャラはみんな先輩ですが、了子は年上相手でも自分を変えずにいられる子です。『エンタングル:ガール』は了子のそうした魅力を引き出してくれています。みんなこれまでの『ゼーガペイン』世界にいなかった、けっこう強めのキャラで、それも魅力のひとつです。
そして、本書はロボットが出てこない『ゼーガペイン』ということで、アニメをまったく知らない人でも読めるようになっています。
本書を、『ゼーガペイン』を知らずに初めて読む人は、度肝を抜かれるだろうなと思います。それはすごくうらやましい。
TVシリーズの収録時に、よくみんなで話していました。「わたしたちはこのすごい展開を知っているけど、これから見る人たちがすごくうらやましいね」と。今回、またその感覚を思い出しました。
本書では「了子はゼーガペインに乗らない」といった違いはありますが、『ゼーガペイン』の世界ときっちり地つづきになっていて、違和感はまったくありません。
本書を読んでからアニメを見てもすごく楽しんでもらえると思います。
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声優、女優。東京都出身。2006年、『ゼーガペイン』で主役級のカミナギ・リョーコ役をつとめる。